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1日10分の免疫学(71)がんと免疫③

腫瘍は免疫応答を逃れ、免疫応答を操作する

本「腫瘍は免疫応答から逃れたり、免疫応答を操作したりする」
大林「それ詳しく知りたいです!」
本「腫瘍抗原の発現が減少したり、エピトープが変異したりした変異腫瘍細胞は、エフェクターT細胞や抗体から逃れる」
大林「変異による回避か……」

◆復習メモ
自然免疫応答は「非特異的」、適応免疫応答は「特異的」に機能する。
適応免疫を担うのは、T細胞とB細胞
T細胞とB細胞は、細胞ひとつひとつの細胞表面にあるアンテナ(T細胞受容体、B細胞受容体)に多様性がある。
T細胞とB細胞は、自分のアンテナ(受容体)に一致する「抗原」に反応(特異的な反応)※をすると、クローン増殖して対抗する。※反応して活性化・増殖するには様々な条件が必須。

腫瘍細胞表面にあるタンパク質(腫瘍細胞の目印となるため「腫瘍抗原」と呼ばれる)の細胞表面に出る量(発現量)が減ったり、
T細胞やB細胞、B細胞のつくりだす抗体が、認識する抗原の一部分(=エピトープ)に変異が生じたりすると、
せっかく準備が整ったクローン細胞や抗体が通用しなくなる。

言い換えれば、適応免疫は「ターゲットを絞ったピンポイントの強力攻撃」「強力攻撃ゆえにターゲットを絞る」というのが特徴。
だから、ターゲットの「目印が減少(腫瘍抗原の発現が減少)」「目印が変異(エピトープが変異)」すると通用しなくなる。


本「長い期間をかけて増殖し、体内の様々な場所へ分散するほど、がん細胞遺伝子変異は増加し、根絶は難しくなる」
大林「あぁ…転移先の環境にも変異具合が影響されるのか。がん初期なら治療しやすいってそういうことだったのね……」

本「上皮細胞形質転換するとMICタンパク質の発現量が増える」
大林「するとどうなる?」
本「MⅠCタンパク質は、活性化受容体NKG2Dのリガンドである」

◆復習メモ
MⅠC糖タンパク質(MHC class chain-related glycoprotein)とは、感染腫瘍化高温などのストレスにさらされたときに細胞内で作られるストレスタンパク質の一種

リガンドとは、生体分子と複合体を形成して生物学的な目的を果たす物質。
免疫学においては「リガンド=特異的に結合するもの」の把握でヨシ!

NKGとは、Natural Killer cell receptor Groupの略。詳しくは↓


大林「きたあああ!NKG2DはNK細胞に発現してる受容体だよね!そこにリガンドが結合すると活性化シグナルがNK細胞内に伝達されるんだよね!」
本「NK細胞CD8T細胞γδ型T細胞に発現する」
大林「うおおお!?」

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本「MⅠCの発現により、3種類のリンパ球の攻撃を受けて殺傷される」
大林「うぉおん!トリプル攻撃じゃん!かっこいい!」
本「でも攻撃が不完全(部分的)だと生き残りの腫瘍細胞が増殖して変異し、免疫応答を回避する機会を得る」
大林「ぬおおお……」

本「上皮腫瘍細胞には自身のMⅠCを切断するプロテアーゼをつくるものがある」
大林「腫瘍細胞が表面のMⅠCを切断したらNKG2Dが結合しなくて3種類のリンパ球はスルーしてしまう……?」
本「もう少し正確に。切断されたMⅠCは、腫瘍に到着したリンパ球の表面にあるNKG2Dと結合し、エンドサイトーシスによりリンパ球の細胞内に取り込まれてともに分解される。つまりNKG2Dの数も減る
大林「へぇ、細胞上についたままのMⅠCの場合は結合して細胞傷害に至るけど、MⅠC単品だと細胞内に取り込まれるのかぁ……」

エンドサイトーシス (endocytosis) とは、細胞が細胞外の物質を取り込む過程の1つ。
★endo-は内、cyto-は細胞、-sisは過程。


腫瘍細胞が細胞傷害性T細胞から逃れる方法

本「腫瘍細胞が細胞傷害性T細胞から逃れる方法の1つとして、HLAクラスⅠ分子の発現阻止がある」
大林「あ!聞いたことある!それでCTLは反応できなくて、逆にNK細胞はMHCの欠損に反応するんだよね」

◆復習メモ
細胞傷害性T細胞適応免疫応答におけるキラー細胞。細胞表面にあるMHCクラスⅠ分子(ヒトの場合はHLAクラスⅠ分子)を認識する。
資料によって呼び名が色々あるので混乱しないように覚えておくと吉。
よく見かける呼び名は、細胞傷害性T細胞、Cytotoxic T Lymphocyte、CTL、Cytotoxic T cell、Tc細胞、CD8陽性T細胞、細胞傷害性CD8T細胞、キラーT細胞。


本「実際、ヒト腫瘍の3分の1~2分の1HLAクラスⅠアロタイプのいくつかの発現が欠損している」
大林「なかなかの確率だな!」
本「ある状況下では、発現欠失により、がん細胞はNK細胞による攻撃を受けやすくなる」
大林「ある状況とは?」
本「P331の図を参照」
大林「えらい戻るな」

◆復習メモ
標的細胞上のHLA-ENK細胞上のCD94:NKG2A結合は、NK細胞による健常細胞の攻撃を阻害する。
非健常細胞HLA-Eの発現を欠きMⅠCを発現する。
MⅠCは、NKG2Dに結合して2B4とともにNK細胞を活性化して非健常細胞の破壊をもたらす。

腫瘍による免疫応答の操作

本「腫瘍免疫応答を操作することもできる」
大林「昔読んだ本では『本来は免疫にとって異物であるが守られる胎児』の真似をして守ってもらうとか…」
本「非炎症時には補助刺激分子B7を欠如した樹状細胞によって提示され、反応したT細胞はアネルギーになる」
大林「出た!B7!」

◆復習メモ
多様性を持つナイーブT細胞には、自己抗原に特異性をもつものがいる。
補助刺激」はそれらが発動しないようにする仕組みとして機能する。
補助刺激分子B7は、極めて限られた細胞種に感染や炎症の期間のみ発現する。
言い換えると、自己抗原に反応するT細胞が、その自己抗原に出会うのはB7のない細胞上であることが多い。
B7がない状態でT細胞受容体と補助刺激受容体がペプチド-MHC複合体と結合するとそのT細胞は外来性のいかなるシグナルにも反応しない状態に陥る(アネルギー)。
アネルギーとなると、そのT細胞は樹状細胞により補助刺激とともに特異抗原を提示されても元の状態に戻ることはない。

大林「えぇと、まだ腫瘍による炎症に至っていない状態では、腫瘍抗原が樹状細胞によって提示されると、樹状細胞上にB7がないから、結合した腫瘍抗原特異的T細胞はアネルギーになってしまうということか!腫瘍との戦いが始まったら戦力になるT細胞が無効化されてしまう!うわぁ」

本「ある腫瘍は、TGF-βなどを分泌して腫瘍内部を免疫抑制状態にして、誘引される制御性T細胞によりさらに免疫抑制的になる」
大林「どうやって制御性T細胞が呼ばれるのか気になるな……」

トランスフォーミング増殖因子(Transforming Growth Factor-β:TGF-β):多彩な機能を持つサイトカインで、その生理作用は細胞増殖、細胞死、細胞分化、免疫調節、細胞運動等に及ぶ。がん化の初期では、増殖に対して抑制的に機能するが、進行するとがん細胞の遊走(移動)や形態変化を促進する。また、細胞傷害性T細胞やNK細胞を抑制し、血管新生を促進させるなど、がんが増殖しやすい環境をもたらす。

発がん性ヒトパピローマウイルスについて

本「発がん性ヒトパピローマウイルスhuman papillomavirus:HPVの持続的感染症性行為により伝染する最も頻度が高い病気である」
大林「子宮頚がんの原因になるんだよね」
本「肛門がん、口腔・咽頭がん、性器疣贅(せいきようぜい)、子宮頸がん、外陰がん、膣がん、陰茎がんの原因となる」
大林「子宮頸がんだけじゃなかったのか……疣贅って何?」

MSD「疣贅(ゆうぜい)は、ヒトパピローマウイルスの感染によって引き起こされる皮膚の小さな増殖性病変で、一般にいぼと呼ばれるものです。」

大林「いぼってヒトパピローマウイルスの感染だったんかーい!」

本「性行為経験者の約50%HPVに感染していると考えられている」
大林「思ったより多い!」
本「全世界で毎年約25万人の女性が子宮頚がんで死亡する」
大林「HPVワクチンの重要性は高いなぁ…」

本「HPVの感染が長引くと、感染細胞の一部がHPV DNAをゲノムに取り込み、p53とRbをコードする遺伝子の機能を不活性にする」
大林「そしてその細胞は悪性形質転換してがん化するわけか」
本「HPVワクチンの接種により、自然感染の80~100倍の特異的な抗体がつくられる」
大林「自然感染より効率いいのか」
本「HPVワクチンはHPV感染予防に有効である」
大林「ということは、既にHPVに感染してる人には……」
本「効果はない
大林「性行為経験後に接種する場合は、感染の有無を検査して、感染してなければワクチン接種とかになるのかな」
みんパピ!「HPVワクチンについて正確な情報を知りたいならこちらへ↓」

今回はここまで!

免疫細胞の世界を4コマ紹介・ファンタジー漫画にしています↓


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