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1日15分の免疫学(115)自己免疫と移植⑧

本「遺伝子だけでなく、環境の影響もある。ほとんどのNODマウスは糖尿病を発症するが、発症のタイミング個体によって異なり、遺伝的に均一であるにもかかわらずコロニーによっても異なる」
※NODマウス(ヌードマウス):免疫不全にした実験用マウス
大林「へぇぇ~、コロニーによって……つまり所属している集団環境の影響もあるのか」

本「常在細菌叢の構成菌が遺伝的感受性を持った個体で自己免疫疾患発症の素因となる可能性が示唆されている」
大林「腸は免疫のかなめですからねぇ……そこにいる常在細菌叢は重要」

本「一卵双生児におけるクローン病の発症の一致率は100%ではない」
大林「NODマウスでも差があるからそりゃそうか。なんらかの個体差かな」
本「腸内細菌叢の違いやヒトゲノム、未知の因子があるのではないかと考えられている」
大林「未知の因子……研究のロマン!」

本「多くの自己免疫疾患のGWAS解析から、特定の免疫経路……特にT細胞の活性化と機能に関与した経路が、多数の異なった様式の自己免疫に共通していることは明らかになった」
※GWAS(Genome Wide Association Study):ゲノムワイド関連解析。ヒトゲノム全体をほぼカバーする1000万カ所以上の一塩基多型(SNP)のうち、50万~100万か所の遺伝型を決定し、主にSNPの頻度と、病気や量的形質との関連を統計的に調べる方法のこと。

大林「遺伝子的な共通点?」
本「1型糖尿病、グレーブス病、橋本甲状腺炎、関節リウマチ、多発性硬化症は第2番染色体上にあるCTLA4遺伝子座の遺伝子多型と関連している」
大林「おぉお、CTLA4!抑制性レセプター!で、遺伝子多型って何?」
WEB「遺伝子多型(genetic polymorphism、いでんしたけい)とは、遺伝子情報構成するDNAのアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の塩基配列が、同じ種が属する集団の個体(個人)間変化していること。学術上は、集団1%以上の頻度で見られるものを示すことがあります」

大林「ずっといでんしたがたって読んでた……たけいか。同じ種族でも個体差が出るってことかな」

本「自己免疫の素因となる遺伝子の多くは、自己抗原の局在と除去、アポトーシス、シグナル閾値、サイトカイン、シグナル、補助刺激分子、そのレセプター、Tregに影響を与える」
大林「うーん、何を言ってるのかわからんな」
本「自己抗原局在除去を制御する遺伝子は、胸腺での中枢性免疫寛容と末梢性免疫寛容にとって重要」
大林「胸腺では自己蛋白質を発現させてT細胞の試験をするよね、その機能に関する遺伝子ってことかな」

本「自己免疫に関連する遺伝子変異最大のカテゴリは、リンパ球活性化を制御するシグナルに関するもの」
大林「補助刺激分子と抑制性レセプター?」
本「そう。あと、抗原レセプター自体のシグナル伝達に関係する蛋白質の変異」
大林「シグナルがうまく伝わらないとか?」
本「その逆も問題だよ」
大林「つまりシグナルの伝わり強すぎたり弱すぎたりする変異か」

本「FoxP3変異やTreg細胞の発生、分化、機能に影響を与える変異もある」
大林「つまりは免疫の守護神に関する変異か。ストッパーに変異が生じると確かに自己免疫疾患になりそう」

自己免疫疾患は多数の遺伝子の複合的な効果で起こる

本「ほとんどの自己免疫疾患は、多数の遺伝子の複合的な効果によって引き起こされる」
大林「ほとんどの、ということは単一のも少しはある?」
本「単一遺伝子性自己免疫疾患もあるよ。その変異型対立遺伝子をもつ個体は非常に高い疾患リスクをもつが、その変異体は稀なので、集団への影響は小さい」
大林「ほぉ」
本「Treg細胞の異常が関係している単一遺伝性自己免疫疾患には、X連鎖性の劣性自己免疫疾患IPEX(多腺性内分泌不全症、腸疾患を伴う伴性劣性免疫調節異常症候群immune dysregulation, polyendocrinopathy, enteropathy, X-linked)」
大林「名前が長ーーーーい!」
本「この疾患は、FoxP3をコードする遺伝子の変異によって引き起こされる」
大林「FoxP3はTreg細胞の分化に重要な転写因子じゃん!免疫が抑制できなくなっちゃう」
WEB「Foxp3は制御性T細胞(Treg)のマスター転写因子である. Tregの分化・機能発現・分化状態の維持すべてにおいて必須の役割を担う転写因子. 発現はTregにほぼ特異的であるため,Tregを同定する際のマーカー分子としても用いられる.」


本「IPEXでは、重篤なアレルギー性炎症、多腺性内分泌障害、分泌性下痢、溶血性貧血、血小板減少を特徴とし、早期の死亡をもたらす」
大林「FoxP3がないと大変なことになるんだな……」
本「いや、前も↑で勉強したでしょ、FoxP3遺伝子が変異してるけど患者の血中のFoxP3陽性Treg細胞の数は健常人と同じ」
大林「あ、そうだった。別の要因があるのかもって話」
本「そういうことだね」

本「他に、単一遺伝子性自己免疫疾患で自己免疫性リンパ増殖症候群ALPS(Autoimmue lymphoproliferative syndrome)がある」
大林「リンパ球が増えるの?」
WEB「ALPSはアポトーシス(細胞死)の障害によりリンパ球増殖をきたし、リンパ節腫脹や肝脾腫、自己免疫疾患を示す症候群。FAS依存の細胞死経路にかかわるFAS、FASリガンド、カスペース10の遺伝子異常が認められる。CD3+ TCRαβ+ CD4- CD8- のダブルネガティブT細胞の増加が特色」

本「Fasをコードする遺伝子が変異して全身性の自己免疫疾患となる」
大林「Fasって……T細胞の自殺スイッチじゃん!増殖というか減らない!止まらない!」
本「そう。Fasは活性化したT細胞B細胞に発現して、Fasリガンド結合するとアポトーシスするようにシグナルが伝達される」
リガンドligand:特定のタンパク質と特異的に結合する比較的低分子の化合物。生体分子と複合体を形成して生物学的な目的を果たす物質のことを指す。
大林「細胞にとって、適切なタイミングで死ぬのも大事な役割……」

今回はここまで!
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