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1日15分の免疫学(120)自己免疫と移植13

造血幹細胞移植について

本「造血幹細胞移植は、ある種の白血病やリンパ腫などの造血細胞由来がん有効な治療として用いられている」
大林「骨髄とか…胎児臍帯血とか、あと、最近では末梢血からでもできるようになったんだよね」
※末梢血:血管の中を流れる血液。骨髄の中の血液に対して使われる医学用語。

本「いくつかの原発性免疫不全症地中海性貧血(サラセミア)などの遺伝性血液細胞異常を遺伝的欠損のある幹細胞を、移植で正常なドナーの幹細胞に置換することで治療することができる」
※原発性:他の病気が原因となって引き起こされる疾患は「二次性」「続発性」と呼び、原因となる病気がない場合や、あるいは原因不明の場合に「原発性」と呼ぶ。

大林「移植の前に、元からレシピエントにいる白血球を破壊する?」
本「白血病では、白血病の源である骨髄を放射線治療と細胞傷害性化学療法組み合わせてまず破壊するよ」
大林「だよね……悲しいけど仕方ない。大量殉職だ」

GVHD(移植片対宿主病)について

本「アロ造血幹細胞移植で最も主要な合併症は移植片対宿主病graft-versus-host disease
大林「出た、GVHD!言い間違えそうになるときは英語のフルネームを見ると間違えないやつ!」
本「GVHDでは、ドナーの成熟型T細胞レシピエントの組織を異物と認識して、発疹、下痢、肝機能不全などを特徴とする重篤の炎症性疾患を引き起こす」
大林「ドナーのT細胞的には突然見知らぬ敵だらけの世界に送り込まれたようなものか…」
本「MHCクラスⅠやⅡの抗原にミスマッチがあるときは特に激しい
大林「だから、HLAの型が合うのを用意しないといけない…」

◆復習メモ
T細胞自己非自己を認識できる免疫細胞。胸腺Thymusで成熟するためT細胞と呼ばれる。MHC分子抗原ペプチド複合体を認識する。
細胞表面分子CD4を発現するT細胞は、CD4T細胞とも呼ばれ(ヘルパーT細胞や制御性T細胞に分化する)、MHCクラスⅡ分子を認識する。
CD8を発現するT細胞はCD8T細胞とも呼ばれ(細胞傷害性T細胞に分化する)、MHCクラスⅠ分子を認識する。
※CD分類:細胞の表面にある分子の分類基準。

MHC分子主要組織適合遺伝子複合体major histocompatibility complex。ほとんどの脊椎動物の細胞にあり、細胞表面に存在する細胞膜貫通型の糖タンパク分子。ヒトのMHCはHLAと呼ばれる(ヒト主要組織適合遺伝子複合体Human Leukocyte Antigen)。
MHC分子は2種類あり、クラスⅠ分子はほとんどすべての細胞に発現しているが、分子はプロフェッショナル抗原提示細胞(樹状細胞、マクロファージ、B細胞)といった限られた細胞にしか発現していない。

本「まぁ、実際の移植は型がマッチした兄弟姉妹などで行われるので、ほとんどのGVHDはマイナー組織適合抗原の不一致で起こる」
大林「つまり、HLAの型が適合しても免疫抑制は必要…」

◆復習メモ
マイナー組織適合抗原minor histocompatibility antigen:MHCクラスⅠ分子やⅡ分子は、細胞内でつくられる自己蛋白質由来のペプチド提示する。この蛋白質が多型性を示すなら、同種でも異なる個体であれば異なるペプチドになる。このような蛋白質をマイナー組織適合抗原と呼ぶ。これは細胞傷害性T細胞(CTL)の攻撃対象となりうる。


本「アロ反応性T細胞は、ドナーのリンパ球と放射線照射したレシピエントのリンパ球を混ぜて培養するとその存在の有無を確かめることができる(混合リンパ球反応mixed lymphocyte reaction:MLR)という」

GVHDの有益性

本「GVHDはレシピエントには有害だが、白血病での造血幹細胞移植の治療効果としては有益
大林「なんで?」
本「ドナーT細胞が、レシピエントの白血病細胞のマイナー組織適合抗原を認識して殺すから」
大林「あぁ!そういうことか!」
本「だから、造血幹細胞を調整する際にアロ反応性T細胞を含む成熟型T細胞除去すると、白血病再発の危険が増加する」
大林「GVHDも怖いけど再発も怖いな…」
本「ドナーT細胞除去の合併症の1つに免疫不全もある」
大林「えぇと、移植前レシピエントのT細胞を化学療法と放射線治療で破壊するから…」
本「そう、ドナー由来のT細胞移植後初期の成熟T細胞レパートリーを再編する主要な供給源」
大林「でもレシピエントにも胸腺があるよね……T細胞の再供給が」
本「成人なら?」
大林「あああ!推しの母校が廃校寸前!胸腺の能力は低下している!!!」
本「そう。だからドナーT細胞の除去はレシピエントの日和見感染のリスクを高める」
大林「えぇ…どうすればいいんだ」
本「有望なアプローチとして、レシピエントの抗原提示細胞除去してドナーT細胞が移植直後に出会って反応することを防ぐというのがある」
大林「初期さえ抑えたらいいの?」
本「移植に伴って起きる炎症反応時に活性化されないならGVHDを促進することはないからね」
大林「ほぉ~」
本「だけどこのやり方で移植片対白血病効果があるかどうかは不明」
大林「オゥ……」

今回はここまで!
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