見出し画像

『特急寝台列車ハヤワサ号』上演に寄せて(大石)

上演に寄せて


旅が好きだ。とりわけ、電車での旅が好きだ。
飛行機の旅も、車の旅も、それぞれの楽しさとロマンがある。
しかし、どうしてもどれか一つを選ばなければいけない局面があれば(そんな局面があるのかは知らないが)、電車の旅を選ぶ。

旅に出る時、同じ電車に乗っているのは必ずしも同じ旅に出る人ではないだろう。出張に行く人、地元に帰る人、アテも無く乗っている人、etc…
乗っている人が持つ思いも同様だろう。ワクワクしている人、あーやだなあと思っている人、ソワソワしている人、朝嫌な事があってヘコんでいる人。
そんなたくさんの思いを肩先に感じながら、車窓を眺める。

車窓には知らない景色が広がっている。田園にポツンと立った家、低い建物が並ぶ住宅地、知らないスーパーの看板、謎の巨大な建造物。
そこには生活がある。それらの景色を見ながら「ここの人たちはここで買い物をするのかな」とか、「こういうルートで学校に行くのかな」とか、そんな事を考えるのが楽しい。

僕は、電車の旅が好きだ。


『特急寝台列車ハヤワサ号』という作品について

さて、前置きが長くなりましたが。
こんにちは、「既成戯曲の演出シリーズ」ディレクターの大石です。

今回上演する『特急寝台列車ハヤワサ号』は、タイトルの通り、寝台列車を舞台にした作品です。
僕がこの作品に出会ったのは10年ぐらい前だったと思います。初めて読んだあの時、この作品にとても魅力を感じ、いつか何かの形で上演したいと考えていました。

この作品は、特急寝台列車ハヤワサ号がNYからシカゴに向かう一晩の物語ですが、その列車の乗客だけでなく、列車が通過する土地、線路の信号の監視者、時間という概念、超自然的な存在など、「列車の移動という物語」からは外れたものにも光を当てています。これがこの作品の素晴らしいところなのだと思います。
この世に生まれてから死ぬまでの人生を列車の旅に喩える事がありますが、この作品に描かれているのはまさに、人生の旅の中で確かに存在するが、目に見えない、あるいは見過ごしてしまっているものの存在への気づきだと受け取りました。

生きる事はとても大変だ。自分や、身近な人を見ているだけで精一杯だ。だけど、見えない部分で、多くの人が関わっている。この文章を書けているのも、Macの部品を作った人だったり、officeの設計をしている人だったり、noteのシステム管理をしている人だったり、電気信号の何かだったり……見えない部分で助けてもらっている人や事象がある。
特に、時代の大きな変わり目に生きている今だからこそ、自分の事に精一杯になって感覚を閉じてしまうのでなく、少しでも見えないものに目を向けることができれば、この作品に触れることがそのキッカケになればと思います。10年前にこの作品に抱いた思いからは少し変わっていると思うのですが、これが今、僕がこの作品を上演したいと思った理由です。

——と、僕はこのように『特急寝台列車ハヤワサ号』という作品を捉えましたが、みなさんがこの作品をどのように捉えるか、それは観劇していただいた人数の分だけあるものだと思います。
30名近いキャストが織りなすこの物語、ぜひ劇場でご覧いただいて、みなさんの解釈を聞かせていただけると、とても嬉しいです。

なお、『特急寝台列車ハヤワサ号』(原題:Pullman Car Hiawatha)は、
原作は『The Collected Short Plays of Thornton Wilder Volume I』に、日本語訳版は『ソートン・ワイルダー一幕劇集』にそれぞれ収録されています。


山口浩章さんという演出家について

もともとは、一方的に演出作品や出演作品を拝見しているだけで、山口さんとは面識がありませんでしたので、大石の勝手な印象なのですが……。
山口さんは、戯曲に書かれた言葉やその作品の旨味を大切にして、それらを見事に立体的に抽出することができる演出家だと思っています。
さらに、抽出した強烈なソースや独特のスパイスで味付けをするのではなく、素材の良いところを引き出して調理する事も山口さんの演出術でしょうか。
ソーントン・ワイルダーは、その作品創作にあたり、物語に描かれる感情や行動の「個別性」(individuality)が共通して持つ「繰り返しパターン」(repetitive pattern)に注目し、そういった個別の感情・行動を普遍的な領域へと高めようと試みたと言われています。まさに、山口さんの“強烈なソースを使うのでなく、素材の良さを引き出す”という演出術は、この作品の中が持つ普遍性を描くのにぴったりだと思います。

しかしながら、“素材の味を活かすこと”と、“作品に普遍性を持たせること”はある種、矛盾した要素であるとも思います。ましてやこの作品は登場人物も多く、それらを強烈なソースを使わずに普遍的な作品へとまとめ上げることは至難の技だと思います。
この作品の至難さを踏まえて、前述のような“普段見過ごしてしまっているものに心を向ける”ことを実現できるのは、山口さんの演出に他ならないと思いました。
『特急寝台列車ハヤワサ号』の物語と、30名近いキャストの素材の味が山口さん演出のもと混ざり合った時、どんな作品が生まれるのか。とても楽しみです。

「既成戯曲の演出シリーズ」ディレクター:大石達起


★公演情報

既成戯曲の演出シリーズvol.2
『特急寝台列車ハヤワサ号』

日程:
12月2日(金)19:30
12月3日(土)14:00/19:00
12月4日(日)14:00

会場:
THEATRE E9 KYOTO

チケット:
前売3,000円
ギフトチケット 3,500円
U25サポートギフトチケット 2,000円 <枚数限定>

チケット取り扱い
・THEATER E9 KYOTO https://askyoto.or.jp/e9/ticket/20221202
・KAIKA’s store https://kaikastores.stores.jp


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?