今こそHPVワクチンの話をしよう④~接種するのがコワイ方へ~
HPVワクチン(子宮頚がんワクチン)ってコワイ印象がありませんか?2013年頃、マスコミではさかんに子宮頚がんワクチンのせいで「朝から起きられなくなった」「体中が痛い」「歩けなくなった」「視力が急に悪くなってよく見えない」「記憶障害になった」「生理不順になった」など報道されていました。目にしたことがある方も多いと思います。実際にこのような症状が出ている方の映像はとても辛そうで、本当に大変な毎日だと思います。
厚労省もこの事態を重く見て、2013年6月、HPVワクチンの積極的勧奨をストップしました。幼児期に接種する他のワクチン同様、各自治体から案内を送ってワクチンを受けてください!というのが積極的勧奨なのですが、これをストップして、受けたい人は自治体の窓口に問い合わせたら無料で受けられますよ、という特別な対応をするワクチンになったのです。
報道でも辛そうな症状を見るし、厚労省がお勧めするのをストップしたワクチンを受けるなんてコワイ、我が子に受けさせるのはやめよう、と考えてしまうのはごく当たり前の感情だと思います。実際にそのように思う人や、自治体から案内がないので、HPVワクチン自体や無料接種の時期を知らない人が多くて日本での接種率はものすごく低くなっています。
しかし、これらの症状はワクチンをうけたから生じたものなのでしょうか?
思春期は不調が起こりやすい時期です。特定の思い当たるストレスなどがなくても、心因性といわれる病気、簡単に言うと検査しても何も悪いところはないのに症状が出てしまうことがよくあります。起立性調節障害が起こり、朝から起きれない、常にだるいなどの症状を訴えたり、全身の耐え難い痛みや歩行障害、目が見えにくい、耳がきこえにくいなどの症状が起こりやすいことがわかっています。そしてこれらの症状が女の子に多いと報告されています。
これらの症状、HPVワクチンのせいで体調を崩したとうったえる人の症状と似てますよね。実は、これらの症状はHPVワクチンを受けていない人にもそれなりに出ます。いや、それなり、というのではなく、HPVワクチンを受けた人も受けていない人もほぼ同じ確率でこれらの症状が出ることが明らかとなった大規模調査があります。
2015年、名古屋市でHPVワクチンで重篤な症状が出たと主張されている方々の依頼で、小6~高3の約3万人にアンケートをとった大規模な調査(名古屋スタディ)が行われました。アンケートの項目は、重篤な症状だと主張されていた以下24項目です。
この研究ではアンケートの結果を統計解析したところ、上記の項目全てがほぼ同じ確率で症状が生じていたということがわかり、ワクチンのせいでこれらの症状がでたとは言えない、という結果が出ました。
つまり、HPVワクチンを接種することでこのような重篤な症状が出ることを恐れる必要はない!という結論が出たのです。
これで、HPVワクチンも定期接種として積極的勧奨となる(接種するように自治体から案内が来たりするようになる)と、医療者の多くは期待したはずです。そして、メディアでも、どうやらHPVワクチンのせいではなかったらしいと報道してくれるのでないかとも期待しました。が、実際はほとんど報道されず。。。2020年6月9日現在、積極的勧奨も再開されていません。
【2022.4.1追記 積極的勧奨が再開されました!平成9年度生まれ以降で、接種を逃した方へのキャッシュアップ接種も行われています。】
ところで、なぜ思春期にこのような症状が出てしまうのでしょうか?
このような不調は詐病であるようにあしらわれたり、家庭の問題にされてしまったり、不当な扱いうけることが多いですが、そういうわけではありません。本当に症状はあるし、本人も家族もとても辛いのです。なぜ、このような不調が思春期、特に女の子に多く起こってしまうのでしょう?
明確な原因はわかっていませんが、更年期に不調が多いように、思春期もホルモン動態が大きく変化する時期であり、特に女の子は生理があるので毎月のホルモン分泌の変動も男の子とくらべ大きいので、このような不調が起こりやすいのではないかと個人的には考えています。
また、HPVワクチンも他のワクチンと同様、副反応は存在します。副反応とは、薬の副作用のようなもので、本来の役割以外のことが起こってしまうことです。インフルエンザワクチンなど他のワクチン同様、体質などによっては急激なアレルギー症状であるアナフィラキシーショックが起こることがありますが、極めて稀です。万が一起こってしまっても、医療機関での待機中のことが多く、すぐに対処するので後遺症などはありません。副反応のうち比較的よく起こるのが、接種時の失神と接種した部分の腫れです。
HPVワクチンは、日本での他の大体のワクチンの接種方法とは異なり、筋肉に注射(筋肉内注射)します。これに対し、日本の他のワクチンは皮下組織に注射(皮下注射)をします。なぜかというと、HPVワクチンには前回のnoteで説明した「HPVのような物質(HPVの外側にあるたんぱく質)」の他に、アジュバンドという効果を高める物質が入っているからです。このアジュバンドというものは炎症を引き起こすことがあり、皮下よりも筋肉の方が炎症を起こしにくいために、筋肉内注射をすることになっています。また、筋肉内注射の方が免疫を獲得する効果も高いと言われています。ちなみに、HPVワクチン以外のワクチンにもアジュバンドは入っており、諸外国では他のワクチンも基本は筋肉内注射です。
【2022.04.01追記 コロナワクチンも筋肉注射です。今後はインフルエンザワクチンなども諸外国にあわせて筋肉注射になるかもしれません。】
このようにHPVワクチンは日本ではあまりなじみのない筋肉内注射であるため、「痛い」という話も良く聞きますが、実際は皮下注射と筋肉内注射のどちらが痛いかは微妙なところです。ワクチン接種時の痛みは、針を刺す痛みと、薬剤を注入した際の刺激の痛みにわかれます。針を刺す痛みは筋肉内注射の方が痛いのですが、薬剤を注入した際の痛みは筋肉の方が痛くないと言われています。ただ、痛みは、その時の気分にかなり左右されますので、コワイ気持ちが強いと痛みをより強く感じてしまったりもします。筋肉内注射のため普段と違う部分に注射をされるというのもコワイという原因になっているように思います。
そしてこの痛みを強く感じてしまうと、迷走神経反射というものがおこって失神してしまうことがあります。この迷走神経反射は採血などでも良くおこることがあり、一時的に血圧が下がってしまうだけなので、30分ほど横になっていると回復し、後遺症などはありません。
接種した部位の腫れも、インフルエンザワクチンなど同様よく起こります。肩からひじにかけて腫れて熱をもったようになることもありますが、こちらも大体は1週間ほどで良くなります。塗り薬がありますので、このように腫れた場合は、接種したクリニック、病院、もしくはお近くの皮膚科を受診してください。
具合が悪くなって受診して薬を飲んだりするのと違って、ワクチンは元気な時にわざわざ受診して、わざわざ痛い思いをするので、ただでさえ億劫。しかもコワイことが起こるのでは!?と、不安にさせる報道があったりすると、ますます接種したくないのは当然。でも、実際のところ、コワイことはまず起きないと思ってよいですし、実際に子宮頚がんになった場合は、時間も、手間も、時には命さえも奪われます。今のところは小6~高1の女子(とはいえ、3回接種のため高1の9月までに初回接種)は無料で受けられますので、その年代のお子さんは是非接種をするようにお勧めします。
【2022.4.1追記 接種をのがしてしまった方のために、現在、平成9年度生まれ以降の女性は無料で接種できる措置がとられています。その世代にあたる人にも接種をおすすめします。詳しくは自治体に問い合わせを!】
次回は、実際に子宮頚がんになった場合はどのような症状なのか、どのような治療をするのかについて記載予定です。
参考文献
リーフレット「HPV ワクチンの接種に当たって医療従事者の方へ」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/dl/yobou180118-5.pdf
厚生労働省 副反応追跡調査について
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/chousa/index.html
公益社団法人 眼科学会 子どもの目の心身症 -心因性視力障害-
https://www.gankaikai.or.jp/health/32/
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