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資本コストや株価を意識した経営と『対話』

皆さまこんにちは、アクロポリス・アドバイザーズです。

本日は、一般社団法人 機関投資家協働対話フォーラムの参加投資家(以下「参加投資家」:企業年金連合会、第一生命保険、三井住友DSアセットマネジメント、三井住友トラスト・アセットマネジメント、三菱UFJ信託銀行、明治安田アセットマネジメント、りそなアセットマネジメント(50音順))が、流通株式時価総額・PBRなどをもとに選定したプライム上場企業の社長宛に送付したレターである「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた投資家との対話のお願い」について紹介していきたいと思います。

本レターは送付したプライム上場企業に対し、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた適切な情報開示や参加投資家との協働対話をお願いする内容になります。



■ 概要

企業価値向上の実現に向けて、2023年3月31日に東京証券取引所からプライム市場の全上場会社に対し、「株主との対話の推進と開示」に関する要請がありました。

上記の要請通知についてはマスコミ各社も大きく報じ、「多くの日本企業が本格的な変革に乗り出すのではないか」という期待から海外でも注目され、それに対し株式市場にも反応しました。

しかし残念ながら、マスコミ報道等で「PBR1倍割れ」が強調されたこともあり、一過性の資本政策を模索する企業や、投資家からの注目を集めようとする企業、ESG投資を呼び込もうとする企業など、事業の収益性や成長性には繋がっていない非財務情報をアピールする企業も散見されました。

このような企業の取り組みは投資家の求めている企業価値評価の向上の実現には結びつきにくく、あまり効果的ではありませんでした。

企業がこのような取組をしている背景には、実際に投資家と対話する体制や経験が不十分であり、どのような取り組みが効果的であるのかわからないという点が影響していると思われます。

そこで、株式を保有し続けるパッシブ運用や長期資金を安定運用するアクティブ投資など、長期の視点で幅広く日本株式に投資する参加投資家は、今回の東証による要請の内容に賛同し、”独自の技術や製品・サービスに強みを持ち、雇用を創出し、長期的な成長戦略のもと企業価値を向上させていこうとする企業を支援していきたい”という想いから、投資家による企業価値評価方法や企業に求める情報開示についてまとめたレターを選定した企業の社長宛に送付しました。

■ 本レポートのポイント

投資家が企業価値評価を行うために必要な情報


1.参加投資家の基本的な考え方

参加投資家は長期資金を投じて企業に資本を提供し、そのリスクに見合った投資リターンを得て資金提供者や日本経済に貢献しています。
企業は中長期的な視点で資本コストを上回る投資リターンを追求し、これによって企業価値を向上させ、株主にリターンを提供しています。

投資家の企業価値評価方法は様々であり一律的な対処方法はありませんが、基本的には見込める「収益性」「成長性」と、想定されるリスクを反映した投資家の期待収益率である「資本コスト」を比較することです。
この比較により企業価値(将来キャッシュフローの割引現在価値)を計算し株価を算出します。

たとえ現時点で高い収益性があっても将来の成長性が期待できない場合や、収益性と成長性がある一方で高いリスクと資本コストが存在する場合、株価は上昇しない傾向があります。
特に、業界特性のリスクと資本コストが高い場合は、それを上回る見込みがある収益性と成長性がなければ株価は上がりません。

また「PBR」は、収益性を表す「ROE」と、成長性を表す「PER」で構成されており(PBR=ROE×PER)、事業の収益性と、成長性を高めることにより、PBRは向上させることができます。
PBR1倍割れとは、単に投資家が捉えている株価が低いということにすぎず、解散を求めているわけではありません
 どのように収益性をあげるのか、どのように成長し続けるのか、どのように資本コストを下げるのか、これらをきちんと説明でき、その内容を投資家が納得できれば、PBRなどの株価バリュエーションは上昇していきます。

したがって、企業は自社の資本コストを把握した上で、
・中長期的な成長戦略の策定
・戦略を実現するための収益計画や資本政策、事業ポートフォリオの見直し
・経営資源の配分
などについて株主にわかりやすい言葉や論理で明確かつ具体的に説明していく必要があります。

2.企業価値評価の項目

前述のとおり「収益性の向上」と「成長性の拡大」に向けた取り組みと、適切なリスクマネジメントや資本政策、ガバナンスの整備などによる「資本コストの低減」に向けた取り組みを説明し、投資家にその実効性と実現可能性に確信をもってもらうことが、企業価値評価を高めるIR活動の基本となります。

企業価値評価の項目としては特に以下4点に着目します。

①収益力はあるか

・価値創造の源泉は何か
・どのようなビジネスモデル/収益構造なのか
・資本コストを上回る資本収益性を達成できているのか
・資本効率向上の必要性を認識し、適切に取り組んでいるのか

②成長性に確信が持てるか
・市場特性や競争環境はどのようなものか/成長機会を捉えているのか
・どのような成長戦略か/成長ドライバーは何か
・必要な経営資本が明確化されているか/無形資本(人材・知財等)は確保できるか
・ポートフォリオマネジメントが機能しているか。資源配分は適切か。

③リスクマネジントは適切か
・事業運営上・戦略遂行上のリスクは何か
・適切にリスクを把握し、対応しているか

④資本市場に対する姿勢/資本政策/ガバナンス/企業風土・文化/経営トップの熱意
・株主としっかり向き合っているか/株主の利益を十分考慮しているか/対話する姿勢はあるか/(投資家への)情報開示は積極的か
・資本政策はどのようなものか
・ビジョンやパーパスは浸透しているか/企業風土・文化は健全で価値向上の推進力となっているのか
・ガバナンスは機能しているのか/戦略を推進する力になっているのか
・経営トップのコミットメントはあるのか

3.投資家との対話で説明すべき項目

「企業価値の向上に向けたストーリー」と、そこで説明すべき項目、それに対する投資家の評価項目(前述)を整理したものが以下の表となります。

【出典】一般社団法人 機関投資家協働対話フォーラムホームページ

このようにストーリーとしてまとめるためには、多岐にわたる項目を整理する必要があり、社内検討に時間を要するものもあります。
すべての項目が整うまで対外的な説明を控えるのではなく、まずは整理できた項目から投資家に説明することをお勧めします。

■ 最後に

本日ご紹介させていただきました一般社団法人 機関投資家協働対話フォーラムからプライム上場企業の社長宛に送られた手紙は、プライム上場企業の社長だけではなく、”投資家に納得いただける説明をしたい”と日々業務に取り組まれている経営陣やIR担当者の方々にも役立つ内容だと思います。

是非今回のポイントを参考に、IR活動を戦略的かつ積極的に行い、企業のポジションや価値提案を際立たせるような情報発信、投資家が求める情報に焦点を当てた的確かつ明快な説明を心掛けることで、本来の魅力を投資家にきちんと理解していただける状態となることを願っております。

ここまで御覧いただき、誠にありがとうございました。

詳細はこちらのリンクよりご覧いただけます。
資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた投資家との対話のお願い


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