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2023年度定時株主総会 アクティビストからの株主提案まとめ②

皆さまこんにちは、アクロポリス・アドバイザーズです。

さて、こちらは2023年度にアクティビストが株主提案を行なった事例をまとめて紹介する2本立てのノートの第2弾です。

今回のまとめ②の記事に興味を持ってくださった方々、ありがとうございます。
『2023年度定時株主総会 アクティビストからの株主提案まとめ①』から引き続き読んでくださっている方々、とても嬉しいです。
前回のまとめ①も確認したい方は、次のリンクから参照をよろしくお願いいたします。

今回も前回から引き続き、アクティビスト別に提案をまとめ、その中からいくつかピックアップして詳細を紹介していきます。
第2弾である今回は、Nippon Value InvestorsOasis ManagementSilchester International Strategic CapitalTIH Investorsタワー投資顧問Unearth International LimitedUnited Managers JapanValue Act CapitalYamauchi-No. 10 Family OfficeキャピタルギャラリーシティインデックスイレブンスNHGGP(日本グローバル・グロース・パートナーズ・マネジメント)の13社について紹介いたします。

以下は今回のまとめ②で紹介するアクティビストの株主提案早見表です。
提案概要の部分に提案内容を簡単にまとめたので、少し確認したい時などに拡大してご使用いただければと思います。

各社プレスリリースより作成

■Nippon Value Investors

日本株式運用専門のブティック型投資顧問会社として2005年に設立され、英国の投資顧問会社であるSilchester International Investors LLPと資本関係を有しています。このファンドの投資方針は、「企業の質に対して割安と考えられる株式に投資を行う」というものです。

①高周波熱錬への提案

自己株式取得の件

[ネツレン]株主提案に対する取締役会意見より引用

2年連続の株主提案であり、前年度は剰余金処分についての株主提案でしたが、提案理由については概ね同様であると言っていいと思います。

当該会社の自己資本比率は、2022年12月末時点において72.9%の高水準にあり、この提案を実施することで、現状の72.9%から約67%に低下し、自己資本比率の適正化に寄与すると考えられています。

【参考資料】
[ネツレン]株主提案に対する取締役会意見
[ネツレン]株主提案に対する取締役会意見(2022年度)

■Oasis Management

オアシスは、最高投資責任者(CIO)セス・フィッシャー氏によって2002年に設立されました。東京オフィスは2020年6月に設立され、海外のアクティビストが日本に拠点を構えるのは珍しく、長期にわたって日本への投資を行なっていく姿勢がうかがえます。
直近では、フジテックへの活動が注目を浴びています。

①熊谷組への提案

1. 自己株式取得の件
2. 剰余金処分の件
3. 定款一部変更の件(戦略検討委員会の設置)

[熊谷組]株主提案に関する取締役会意見より引用

オアシスは2016年から熊谷組の株式を長期的に保有しています。
オアシスが株主提案として提案するのは上記の通り3点ですが、会社提案の議案である「櫻野社長の取締役への再任」と「佐藤氏の取締役への再任」の2点に反対票を投じることを株主に推奨しています。

キャンペーンサイトより引用

熊谷組の株式は現在PBRが1倍割れである、0.77倍で取引されており、現在の経営陣での経営が失敗していることを表していると、オアシスは考えています。

熊谷組は、住友林業との資本提携によって調達した資金で投資を行い、営業利益が2017年3月期から倍増するというプランを立てましたが、度重なる計画目標の未達工事検査の不正の発生などがあり、利益率および利益が縮小を続け、競合他社に劣る業績となりました。
オアシスは、住友林業との資本提携によって生み出された利益はなかったと述べています。

【参考資料】
[熊谷組]株主提案に対する取締役会意見
[オアシス]熊谷組定時株主総会キャンペーンサイト

②北越コーポレーション定時株主総会に対する声明

こちらは株主提案ではないですが、来る株主総会において代表取締役社長である岸本氏の再選反対票を投じることを、オアシスは強く要請しています。

■Silchester International

シルチェスターは英国の資産運用会社で、主に米国以外の国の株式に投資しており、日本の株式市場への投資額は1兆8億円以上です。
価値に基づいて投資し、長期的な資産運用を重視しており、アクティビスト投資家ではなくコーポレート・ガバナンスに関する投資家としての義務を重視しているとしています。

①京都銀行への提案

1. 剰余金の配当(特別配当)の件 
2. 自己株式取得の件

[京都銀行]株主提案に関する取締役会意見より引用

京都銀行へは2年連続の株主提案となります。
京都銀行のコアの銀行事業からのROEが少なくとも10%に達するまでは、利益の更なる留保はすべきでないという理由からの提案です。

さらに、PBR1.0 倍の達成に向けた合理的な計画を発表するべきだとしています。

【参考資料】
[京都銀行]株主提案に対する取締役会意見

■Strategic Capital

旧村上ファンドのナンバー2だった丸木強氏によって2012年9月に設立されました。主に日本の上場企業で、本来の企業価値より低く評価されている企業に投資し、市場からの評価が低い要因を改善するため、少数株主として積極的に働きかけています

以下のリンクはストラテジックキャピタルの株主提案一覧です。

①日本証券金融への提案

1. 執行役会長の廃止のための定款変更の件
2. 代表執行役社長の個別報酬開示に係る定款変更の件
3. 社長経験者の再雇用等の禁止に係る定款変更の件
4. 社長経験者の役員退任後の待遇開示に係る定款変更の件
5. 大株主(シンフォニー・フィナンシャル・パートナーズ)から行われた重要提案行為の開示に係る定款変更の件

[SC]株主提案についてより引用

日証金の株価はPBR1倍を大きく下回っており、株価低迷の一因として、これまで経営幹部の地位が日本銀行、財務省及び東証出身者の天下りによって独占され、株主軽視の経営が行われていることであるとストラテジックキャピタルは考えています。

一方で日証金側は、中長期的な企業価値の向上などに加え、途中経過であるものの、ROE やTSRの持続的上昇などに関する説明を対話を通して行ってきたものの、ストラテジックキャピタルはそれについては関心を示さず、面談の論点はいわゆる天下り問題に絞られてきており、建設的な対話が行われていないと反論しています。

【参考資料】
[日証金]株主提案に対する取締役会意見
[日証金]SCによる検査役選任申立て及び同社との対話の状況について
[SC]株主提案について
[SC]日証金のガバナンス改革特設サイト

■TIH Investors

資本効率の悪さや開示レベルの低さ、ROIC(投下資本利益率)やROEの無理解などに対して改善を迫りつつも、海外販路や海外展開などを後押しするなどで大きな成果を上げています。

①石井鐵工所への提案

定款一部変更の件(新設)
当会社は以下の情報開示を行うこととする。
(1) PBRを1倍以上とするために合理的に必要と考えられる経営計画ならびに、資本コスト・資本収益性およびそれらの算定根拠
(2) 賃貸等不動産が有する含み益(貸借対照表計上額と期末時価の差額)が貸借対照表上の株主資本合計を上回る場合、上記(1)について含み益を加味した修正連結純資産を用いた数値を併記する。

[石井鐵工所]株主提案に関する取締役会意見より一部抜粋引用

石井鐵工所の株価は、PBRが常に1倍を下回っています。
特に本業以外で賃貸等不動産を多数保有しているため、現在開示されている形式的な資本収益性等は、実体と大きく乖離したものになっており、投資者をミスリードしている状況にあると指摘しています。

TIHは、東京証券取引所の資本コストなどに関する分析や開示の要求に則し、それらの具体的な計画の公表と数値の開示を要求しています。

【参考資料】
[石井鐵工所]株主提案に対する取締役会意見

■タワー投資顧問

タワー投資顧問の信じる「企業価値」に対し「割安」な銘柄を買い、「割高」な銘柄を売るという投資方針で、特に「将来の1株あたりの利益成長率」と「株価収益率(PER)」に重点を置いているとしています。

①ヤギへの提案

自己株式の取得の件

[ヤギ]株主提案に関する取締役会意見より引用

【参考資料】
[ヤギ]株主提案に対する取締役会意見

■Unearth International Limited

日本の独立系の投資会社です。
徹底したプロセスを通して企業本来の理論価値を算出し、理論価値と現在の企業価値に大きな開きがある場合、それを【市場の乖離】として捉え、株主権利を行使することによってその乖離をなくし、本来の理論価値に近づけることで企業価値の向上を実現するとしています。

①大井電気への提案

1. 取締役(監査等委員である取締役を除く。)の報酬の減額の件
当社の取締役(監査等委員である取締役を除く。)の報酬の限度額を年額 4000万円以内とする。
3. 当社株式等の大規模買付行為に関する対策案(買収防衛策)の廃止の件

[大井電気]株主提案に関する取締役会意見より引用

大井電気はこれまで、度重なる業績予想の下方修正(2年半で7回)により、株主のミスリードを続発させているとし、取締役として経営資質・先見性がないと言わざるを得ず、ここ数年業績不振が続く経営責任も兼ねて、取締役報酬の減額を提案しています。

【参考資料】
[大井電気]株主提案に対する取締役会意見

■United Managers Japan

2004年に設立され、最適なリスク調整後のリターンを、様々なニーズを持った投資家に提供していくことが、社会的な役割であるとしています。

①マルゼンへの提案

剰余金の処分の件

[マルゼン]株主提案に関する取締役会意見より引用

マルゼンは、長期間にわたる配当政策の失敗により資金をため込みROEが低下しました。PBR0.69倍という割安状態を解消するためには、配当性向を高めて不必要な現金を減らしROEを改善する必要があり、また、経営陣は中長期的にも自己資本を積み上げないことを明らかにする必要があるとUnited Managers Japanは述べています。

【参考資料】
[マルゼン]株主提案に対する取締役会意見

■Value Act Capital

2000年にジェフリー・アッベン氏によって米国のサンフランシスコに設立されました。運用資産は150億ドル(約1兆6,000億円)とアクティビストのなかでも有数の規模を誇っており、他のアクティビストに比べて、穏健派と見られています。
投資先企業の5~10%の株式を保有し、経営陣の同意を得て取締役を派遣することで、内部から財務体質の改善や事業の再建を行い、企業価値の向上を目指しています。

①セブン&アイ・ホールディングスへの提案

第4号議案 取締役10名選任の件(会社提案・株主提案)
伊藤順朗氏、永松文彦氏、ジョセフ・マイケル・デピント氏、丸山好道氏、井澤𠮷幸氏、山田メユミ氏、 ジェニファー・シムズ・ロジャーズ氏、ポール与那嶺氏、スティーブン・ヘイズ・デイカス氏及びエリザベス・ミン・マイヤーダーク氏を取締役として選任する。
第5号議案 取締役4名選任の件(株主提案)
名取勝也(なとりかつや)氏、Dene Rogers(ディーン・ロジャーズ)氏、Ronald Gill(ロナルド・ギル)氏及びBrittni Levinson(ブリトニー・レビンソン)氏を取締役として選任する。

[Seven & i HD]株主提案に対する取締役会意見より引用

バリューアクトの歴史の中で、株主提案を提出したのは17年前の1回だけで、これが2回目となります。
バリューアクトの日本投資責任者であるヘイル氏は、「セブン&アイには非常に大きなポテンシャルがあると考えているが、ガバナンス不全やリーダーシップの問題でその力が十分に発揮されていない。そこで最後の手段として株主提案という方法を採った。」としています。

また、バリューアクトは会社提案の議案である、代表取締役井阪氏と後藤氏の再任と、社外取締役である伊藤邦雄氏(指名委員会委員長)と米村氏(指名委員会委員)の再任案に、株主は反対票を投じることを求めています。

定時株主総会の決議結果は、第4号議案はすべて可決第5号議案はすべて否決という結果になりました。

【参考資料】
[Seven & i HD]株主提案に対する取締役会意見
[Seven & i HD]株主提案に対する取締役会意見(プレゼン資料)
[Seven & i HD]4/20バリューアクトからのレターに対する取締役会意見
[Seven & i HD]定時株主総会決議結果

■Varecs Partners

2006年の創業して以来一貫して、日本の中堅上場企業に対し長期的な投資を行っています。質の高い日本の中堅優良企業を発掘し、長期的な資本を提供することが使命であるとしています。

①テクノメディカへの提案

剰余金の処分の件
当期純利益全てを配当金とすることを企図するもの

[テクノメディカ]株主提案に対する取締役会意見より引用

テクノメディカは過剰な現預金を留保しており、当該会社の業態を鑑みると非常に高い自己資本比率を推移しており、ROEの低下を招いています。

2022 年に開催された第 35 期定時株主総会においては、同様の内容の議案が、過半数を超える特定の利害関係のある株主以外の一般株主から賛成票を得ました
ヴァレックスは、このことは配当を大幅に増額し余剰資金を株主に還元することが、株主価値を高め、ひいては株価の向上につながるという考えに、多くの一般株主が賛同したことを示していると言える、としています。

【参考資料】
[テクノメディカ]株主提案に対する取締役会意見

■Yamauchi-No. 10 Family Office

Yamauchi-No.10 Family Office は、任天堂創業家一族山内家を背景に持つファミリーオフィスです。
投資運用部においては、短期的な利益創出の追求ではなく、中長期的な視点で企業や事業を育成する投資を行っています。

①東洋建設への提案

第7号議案 取締役9名選任の件
吉田真地、登坂章、内山正人、岡田雅晴、加藤伸一、名取勝也、山口利昭、松木和道、村田恒子
第8号議案 監査役1名選任の件
野中智子
第9号議案 取締役報酬改定の件
今回の株主総会の決議により社外取締役が増員することを想定し、社外取締役の報酬限度額の増額を提案

[東洋建設]定時株主総会招集通知より引用

YFOが東洋建設に対して行った「友好的」な買収提案を巡り、これまで両者の間で協議を重ねてきましたが、協議が2022年12月5日に決裂して以降、両者とも徹底抗戦の姿勢を示していました。

今回の株主提案は、ガバナンス体制の再構築のために行われました。
YFOは、東洋建設の企業価値・株主価値の最大化のためには東洋建設を非公開化することが最善策と考えており、それを適切に検討できるガバナンス体制を構築する必要があるとしています。

東洋建設の取締役会は、YFOの株主提案、及び公開買付けの申込みの双方に対して「反対」の意見表明を行なっています。

【参考資料】
[東洋建設]株主提案に対する取締役会意見

以下は、YFO関連のプレスリリースがまとめられたページです。

■キャピタルギャラリー

①ヨータイへの提案

剰余金処分の件

[ヨータイ]株主提案に対する取締役会意見より引用

キャピタルギャラリーは、ヨータイのIR関連の対応を一定評価しており、今後の株主還元については、PBR1 倍を超えている場合、自己株式取得によらず増配によるべきであると考えています。

【参考資料】
[ヨータイ]株主提案に対する取締役会意見

■シティインデックスイレブンス

旧村上ファンド系アクティビストファンド。
コーポレートガバナンスが適切に実行されること
を目指し、株主として投資先企業に対するガバナンスを行い、投資先企業と建設的な対話をすることによってその企業価値・株主価値を高めていく方針をとっています。

①コスモエネルギーホールディングスへの提案

取締役(監査等委員である者を除く。)1名選任の件
渥美陽子(※社外取締役候補者)

[コスモ]株主提案に対する取締役会意見より引用

1年以上にわたって対立しており、
これまでの議論を通してシティがコスモに求めてきたのは、製油所の統廃合を含む抜本的取り組み再エネ事業子会社(コスモエコパワー)の分離独立の議論株主還元の見直しです。

そして今回、再生エネルギー事業子会社のスピンオフについてを含め当該会社の企業価値・株主価値向上のための真摯な議論を期待し、社外取締役選任の提案が行われました。

【参考資料】
[コスモ]株主提案に対する取締役会意見
[コスモ]株主提案に対する取締役会意見(一部訂正)

■日本グローバル・グロース・パートナーズ・マネジメント

海外市場において大きな成長ポテンシャルを有する日本企業へ長期投資を行っています。 NHGGPの経験とリソースを活用し、投資先企業の成長や潜在力の具現化を支援して行きます。

①東亜ディーケーケーへの提案

剰余金の処分の件

[TOADKK]株主提案に対する取締役会意見より引用

これがNHGGPの初めての株主提案です。
TOADKKのPBRは、過去 5 年間で2.0倍近傍から0.75倍まで低下しており、その主たる原因は利益の過剰な内部留保が株主資本利益率(ROE)を引き下げているためであると考えています。

NHGGPは、配当性向が向上することは、資本効率とPBRを高め株主の期待に応えるために行うべき改善策の最初の第一歩であるとしています。

【参考資料】
[TOADKK]株主提案に対する取締役会意見
[NHGGP]株主提案(プレゼン資料)


■おわりに

長丁場となってしまいましたが、2本立てのまとめシリーズ、こちらで以上となります。ここまで読んでくださりありがとうございました。
昨今アクティビストの存在感も大きくなり、一部対話が泥沼化している会社も今回紹介した提案には含まれています。
来る各社の株主総会の決議結果がどのようなものになるか、大変興味深いですね。

それではまたお会いしましょう。


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