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生活保護返還金について知ってほしい


1.本当は闇を語りたかった

 記事を書き始めたときは、「生活保護返還金の闇を語る」と題して、制度の難しさを担当者目線で語るつもりでした。ところが、その前提となる生活保護返還金について整理した結果、それだけでかなりの量になってしまったので、この記事では生活保護返還金の概要を解説するにとどめました。

 生活保護返還金の闇の部分は別で記事を書きますのでお待ちください。



2.生活保護返還金とは

 生活保護返還金とは、簡単にいうと生活保護法に基づいて支給したお金の一部または全部を返還してもらうこと、そのお金をいいます。厳密には徴収金とか他のものもあるんですけど、ひとくくりに返還金としています。

 生活保護は、「健康で文化的な最低限度の生活を保障」する制度なので、最低限度を上回る扶助をしてしまった、あるいは、後に判明した事実で行政が保障しなくとも最低限度の生活を送れる状態だったと判断した場合、その差額分を返してもらおうという趣旨です。

 返還金と呼んでいますけど、その実は公債権です。

 生活保護返還金に関する根拠は4種類で、生活保護法第63条法第77条法第78条地方自治法施行令第159条です。本人にかかる債権は法第63条、法第78条、地自法施行令第159条で、法第77条は本人ではなく扶養義務者にかかる債権です。なので、本人→扶養義務者の順に解説します。


(1)生活保護法第63条返還金

 生活保護法第63条には、

 被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。

と規定されています。要するに、資産はあるけど今すぐには使えないという人に対して生活保護費を支給した場合、支給額の一部、または、全部を返してもらうことです。

 クレジットカードの過払い金請求年金の遡及受給なんかがこのケースにあたり、そのお金を使えば生活ができたであろう期間(要は請求中の期間)に支給した保護費を返還してもらいます。


 ロクサン(=63)と呼ばれるこの返還金は非強制公債権なので、滞納されても滞納処分(要するに差し押さえ)ができませんでした。ですが、法改正によって作られた法第77条の2というオプションをつければ、強制公債権と同様の取り扱いができるようになり、滞納処分ができるようになります。


生活保護法第77条の2
(略)
2 前項の規定による徴収金は、この法律に別段の定めがある場合を除き、国税徴収の例により徴収することができる



(2)生活保護法第78条徴収金

 生活保護法第78条には、

 不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収するほか、その徴収する額に百分の四十を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる

と規定されています。これがいわゆる不正受給ってやつです。要するに悪い奴です。収入があったにもかかわらず、それを申告しないことで保護費を多くもらい、後にそれがバレた場合ですね。

 また、後半部にあるとおり、福祉事務所の判断で返還額の40%以下に相当する額を加算して請求できます。要はペナルティですね。加算案件は、不正受給の期間が長期とか、不正受給額が高額とかの悪質なものです。


 ナナハチ(=78)と呼ばれるこの返還金は強制公債権で、滞納処分が可能です。また、「不実の申請その他不正な手段」による行為そのものが詐欺にあたるので、詐欺罪として告訴する場合もあり得ます。



(3)地方自治法施行令第159条戻入金

地方自治法施行令第159条には

 歳出の誤払い又は過渡しとなつた金額及び資金前渡又は概算払をした場合の精算残金を返納させるときは、収入の手続の例により、これを当該支出した経費に戻入しなければならない。

とあります。読んで字のごとくなんですけど、一応補足しておくと、保護費を支給した時点では不確定だった要素が確定した結果、誤払いや払い過ぎになった金額を返してもらうという趣旨のものです。

 たとえば、保護費計算時の見込みよりも収入が多かった場合、入院が長期になって生活費の基準が入院基準(←居宅基準より安い)にかわり、差額が生じた場合などですね。ちなみに、計算の結果、逆に保護費が足りなかったら追給されることになります。

 厳密には生活保護法に基づく返還金ではないんですけど、生活保護業務で頻繁に登場するものなので紹介しておきます。取り扱いは非強制公債権で、根拠が生活保護法ではありませんので、法第77条の2はつけられません。



(4)生活保護法第77条徴収金

 生活保護法第77条には、

 被保護者に対して民法の規定により扶養の義務を履行しなければならない者があるときは、その義務の範囲内において、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の全部又は一部を、その者から徴収することができる。
2(略)

とあります。要するに、生活保護を受けている人を扶養できる能力があるにもかかわらず扶養しない者に対し、保護費を返還してもらうことです。

 民法上の扶養義務が発生する者は、父母、祖父母、曾祖父母、兄弟姉妹、子、孫、曽孫です。また、結婚している場合は、配偶者(とその親族)にも扶養義務が発生します。この人たちのなかに扶養できる能力があって、その義務を履行しない人がいれば、そこから徴収しようというものです。

 この法第77条は強制公債権の扱いですので、滞納処分が可能です。

 少し前に、某芸人が母親に対して扶養義務を怠ったのではないかと問題視されていましたね。あれは法第77条案件だったんじゃないかな。当時の彼の年収で扶養できないなら、日本中のどの親族も扶養できないですよ。



3.まとめ

生活保護法第63条(ロクサン)
無自覚に最低限度の生活水準を達成していた。

生活保護法第78条(ナナハチ)
悪い奴。

地方自治法施行令第159条(戻入)
誤差の修正。概算から精算へ。

生活保護法第77条(扶養義務者)
親族が太かったやつ。


 こうして整理してみても、法律ってややこしいですね。

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