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夫の癌を知った日

7つ上の夫は日々筋トレや水泳で体を鍛えていたので、
年齢の割に見た目も若く実年齢を言うと驚く人が多かった。
しかし、2021年6月下旬。
夫が人間ドックでバリウム検査の結果、胃カメラの受診勧告を受けた。

胃カメラ当日、「食道に腫瘍が見つかったよ。まだ病院だからお義父さんに転送して」と衝撃のメッセージが画像と共に送られてきた。
体全身の血液が足元に下がってくるのを感じた。
消化器外科の医師である父にすぐ転送すると、翌日夫と子供達と実家に帰ってくるように言われ、私も癌と悟った。
夫はその時、胃カメラの担当医から「癌である可能性が高いけど生検に出してみなくては確定できない」と言われたそうだ。

調べなきゃいいのに調べずにはいられない。
「食道 腫瘍」 「食道 腫瘍 悪性」 「食道癌」「食道がん 予後」
調べれば調べるほど悪い情報にばかり目が行き、不安と心配とどこにも持っていきようのない気持ちが私を襲った。幼い娘たちや夫の前では努めていつも通り、笑っていなくては。そういった義務感も同時に覚えながら、14歳になった愛犬をぎゅっと抱きしめて心を静めた。

翌日実家に帰ると、父から「間違いなく癌。ステージはおそらく2。若いし体力もある。しっかり標準治療を受けていこう。ドセタキセル系の強い抗がん剤3クールと全摘手術。大丈夫。みんなで頑張ろう。医者の腕の見せ所だよ。」とすぐに行くべき病院を教えてくれた。
父と夫は長い間話し込んでいたが、ここで夫は「俺は治る。」と気持ちを作り上げたという。

私は、
ただただ、夫を失ってしまうかもしれないという恐怖と不安、娘たちを不憫に思う気持ちで押しつぶされそうになる時間と
妻として、母として毅然と癌に立ち向かい、夫をサポートしなくては!
必ず治るんだ!という強い気持ちが優勢になる時間とを行き来していた。

夫と相談して、当時小3と年中の娘に、癌について伝えることにした。
ちょうど夏休みが治療期間になるということもあった。いつも忙しくて家にはいないパパが家にいるのも、身だしなみには人一倍気を遣うパパの髪の毛がなくなってしまうのも、娘たちにとって説明なしには受け容れられない事態になると思ったからだ。
長女は、「パパは治るんだよね?ママはお医者さんじゃないからじいじに聞いてくる!」と、慌てた様子で祖父に説明を求めに行き、納得した様子で戻ってきた。次女は、パパがしばらく家にいられるようになることを喜んでいた。

その一週間後、諸検査の後「胸部食道がん ステージ2」の確定診断が下った。私には日時を告げず、夫は一人で告知を受けてきた。
手術の日に主治医から聞いたのだが、家族の診察への同伴を求めても、「妻には余計な心配をかけたくない」と断固として一人での受診を貫いたそうだ。怖かっただろうに、頼りない妻であることを反省し、また夫のやさしさに涙が止まらなかった。

夫の入院日=治療開始日は告知から1週間後に決まった。

★つぶやき★
「標準治療」という言葉を初めて知ったのだが、
標準治療と聞くと、より良い治療があるのではないかと思ってしまう。
しかし「標準治療」とは、科学的根拠に基づいた、現在用意できる最良の治療、という意味だという。
「標準治療」という名前をもう少しポジティブな名前に変えれば、標準治療を受けていく患者さんが増えていく気がするのは私だけであろうか。


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