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「やる気」はどこから生まれる?〜モチベーションの心理学〜

モチベーションってなんだ?

やらなきゃいけないことがあるんだけど、どうにもやる気が出ない…
誰しもそんな経験があるんじゃないでしょうか。

また、「あいつはやる気がない」など、ある人のパーソナリティを表現するような場合にも「やる気」という言葉が使われることがあります。

この「やる気」≒「モチベーション」とは何なのか?
どうやって生じ、どうやって失われていくのか?
そういった「モチベーション研究」に関わる様々な理論を紹介しているのが「モチベーションの心理学」です。

今日、モチベーション研究は特に教育・経営(人材マネジメント)の分野で盛んだということで、それらの領域に属する方には一読をお勧めします。
専門的な内容が多く、なかなか読み応えのある本でしたが、特に興味深かった部分を備忘録として残しておきます。


期待 × 価値理論

当たり前のような話ですが、私たちは物事に対して「価値がある」と感じれば感じるほどモチベーションが高まります。
例えば、将来どんな職業に就きたいかを考えるとき、
「給料が高いから」「好きだから・得意だから」「社会貢献度が高いから」など、人によって何が「価値」になるかは異なるものの、その魅力が高いほど、取り組むモチベーションは生じやすくなりますよね。
しかし本書で指摘されているのは、人は「価値を感じるだけでは行動には移さない」ということです。

例えば、「宇宙飛行士」は社会的意義も高いし、ロマンもあるし、憧れの職業にあたると思いますが、「宇宙飛行士いいなぁ」とは思っても「宇宙飛行士になろう!」と実際に行動に移す人は一握りですよね。

では、「価値」の他に何があるとモチベーションが生じるのか?
それは、「自分にもできそう」という見通しがあること、とするのが「期待×価値理論」の考え方です。

  • 価値:人を惹きつける要因

  • 期待:主観的に知覚された成功の見込み

価値を感じるだけでは行動には移さない。
実現可能性、すなわち、「やればできそう」という「期待」が持てるからこそ行動する。

なんだか言われてみれば当然のことのように思いますが、「価値」と「期待」、モチベーションが生じるには2つの要素が必要、というのは抑えておくべき点ではないでしょうか。

「やればできる!」はどこから生まれる?

モチベーションが生じるには「価値」だけでなく「期待」が必要である、というのが「期待×価値理論」の考え方でしたが、では「期待」とはどうしたら生まれるんでしょうか?

ここで紹介されていたのは、「期待」を「結果期待」「効力期待」の2種類に分けて考える、というもの。

  • 結果期待:ある行動が特定の結果をもたらす、という期待

  • 効力期待:自分がその行動を遂行できる、という自分の能力に対する主観的な期待

ダイエットで考えてみると、「これから3ヶ月間、毎日3キロ走ったら痩せるだろう」というのが結果期待。
「私は3ヶ月間毎日走ることができる!」というのが効力期待。
とりわけ、後者の効力期待が基礎になる、と述べられています。

詰まるところ「自己効力感」=「やればできる!」という気持ちを持てるか、が重要だということですね。

興味深いのは、この「効力期待」に影響する要素として紹介されている以下4つの情報です。

  • 行為情報:過去の成功体験

  • 代理情報:他者が該当課題に取り組む様子に関する情報

  • 言語的説得:他者からの励まし、自己暗示

  • 情動的喚起:生理的・身体的反応の知覚情報

最も注目すべきは「代理情報」ではないでしょうか。
他者が実際に成功する姿を見せること、なおかつその「他者」はどんな人でもいいわけではなく、「自分と似た状況・条件の人」であること、が重要な点です。

例えば、「英会話を習いたい」と考えている人にとって、自分と同じように日本で育ち、普段英語に触れる機会のない人が英会話ができるようになった、という情報のほうが、帰国子女で外資系に勤める人が英会話ができるようになった、という情報よりも有益に働く、ということです。

これも言われてみれば当然っぽいですが、改めて頭に入れておきたい考え方です。

人を「やる気にさせる」ことはできるのか?

他者を「やる気にさせる」にはどうしたらいいのか?という問いは、モチベーションというものを考えるにあたって大きなテーマになるのではないでしょうか。

本書では第五章でこの問いについて扱っており、自己決定理論を中心に置いた大変学びが多い章なのですが、すっごく長くなってしまいそうだったので私個人の主観で簡単にまとめます。

人をやる気にするために必要な要素

  • その人の考えを受容し、自己決定を促すこと(自律性サポート)

  • 適切なプロセスを用意すること(構造)

  • その人との関係性を育むこと(関わり合い)

個人的に特に興味深いのは「関わり合い」かなと思っていて、人は元来「他者(やコミュニティ)と関わりたい」という欲求(関係性の欲求)を持っているので、その欲求を満たすことでエンゲージメントが高まるそうです。

誰かをやる気にしようと思ったら、
- まずはその人の考え(なぜやる気が起きないのか?この人は何に価値を感じるのか?)を受け入れ(自律性サポート)、
- 成長を促すような適切なプロセスを用意し(構造)、
- 自分のリソースをシェアしたり愛情をもって接する(関わり合い)、
これらの行動が必要。

わかってはいましたが、「人をやる気にさせる」のには万能なソリューションも近道もなく、地道な働きかけが必要である、ということですね。

モチベーションは「伝染」する

実質最終章となる第七章では、「環境がモチベーションを生み出す」というテーマのもと、モチベーションを生み出す「場」について、様々な観点で述べられています。

  • アメとムチはモチベーションにどう影響するか

    • 報酬や競争はモチベーションを高めるか

    • 「褒め」はモチベーションを高めるか

  • 北風型アプローチと太陽型アプローチ

    • モチベーションを高める環境をどのようにデザインするか

  • モチベーションには「場」が影響する

    • 感情・目標は伝染する

    • 内発的動機づけは伝染する

とりわけ興味深いのは、「内発的動機づけは伝染する」という研究の紹介でした。
詳細は割愛しますが、外発的動機よりも内発的動機で行っている行動のほうが、他者に影響を及ぼしモチベーションを伝染させる、ということを示した研究です。

誰かを動機づけようと思うなら、「それがルールだから」「それが会社のメリットになるから」という客観的な理由ではなく、「それにはこういう意味があると私は考えているから」という、自分の信念・価値基準に照らし合わせた理由を伝えることが大事、ということですね。

おわりに

この本の結論としては「こうすれば必ずやる気が高まる!」という絶対的な処方箋なんてないよ、という話なのですが、モチベーションが生じるプロセス・要因を理解することは有益なことだと思いました。
上述した以外にも動機づけに関連する理論や研究が様々紹介されているので、「モチベーションとは何なのか」、そのメカニズムを知りたい方にはおすすめの一冊です。

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