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理想のキッチン探し㉞小石川

 住む場所として、最近憧れているのは善福寺川の周辺とか、西荻・荻窪の住宅街のあたり。木が多いのにアクセスがよくて、昭和のたたずまいを残す商店街が元気な街が近い。カフェにも本屋にも困らない。
 ところがある夜、夫が「むっちゃお得な物件を見つけた」と見せてくれたのは、都営地下鉄の春日駅から徒歩3分、水道橋・御茶ノ水からも歩けるというアクセスの良さ。神保町にも歩いて行ける。
  夫はもともと、大阪の下町育ちで、徒歩圏内に何でもあるのが理想と考える人です。電車で1時間ぐらいのところも「遠い!」と言うほどで、もともと郊外育ちで、大阪も神戸も1時間だよ、というところに住んでいた私としては、驚くばかり。「じゃあ理想のアクセスはどんな感じ?」と聞くと「15分でどこでも行けるところ」というので絶句したんですよね。だから地方都市がいいというのはわかるけど、人や情報やおいしいものが集まる東京からは、出ていく気になれない。地方だと女性は差別されがちなのも気になる……。
 そんな都心の物件が候補に挙がったのは、112㎡もあるのに、家賃が17万というびっくりするような部屋だったから。でも、間取り図を見ると、一戸建てで居室は和室のみ。パソコン机でキャスター付きの椅子を引くのも、ぎっしり本が詰まった本棚を置くのもどうなんだろう……。ただ、10畳もある地下室がついていて、ここを収蔵庫にしたら便利、というのはうなずけます。そんな好条件には何か裏があるのでは…と思いますが、「ついでに小石川散歩しよう!」と言うので、ついていきました。
 ビル街から一歩入ると住宅街。周りには小さいながら商店街があって、ダイエーがあります。八百屋もある。こんな都心でも住む気で見たらちゃんと暮らしがあるんですね。しかし、物件を見て「ないな」と即断。なぜなら、そこは小さな坂の上で家の入口だけはその坂に面しているけど、奥まった感じで、敷地いっぱいに建っているので再建築は不可な感じで、窮屈な印象がすごく強い。自転車を置くのに苦労しそうでもあります。
 思い出したのが、前の家の近所で120㎡超えで17万で出ていた物件。いかにも頑丈そうなタイル張りの立派な家は、形ばかりの今にも壊れそうなコンクリの石段を降りた先にあり、敷地いっぱいに、まるで埋まっているような家でした。自転車はまず使えない。出入りに苦労するのは目に見えていたので、内見も申し込まなかったんです。
 今回も、入り口だけであきらめたけど、一応見せていただきました。玄関の天井は高いのに、廊下がめちゃ狭くて窮屈な印象。しかし、収納が驚くほど充実しています。本棚が置けそうな、クローゼットにもなる収納が廊下に面してあります。各部屋には押入れ。和室2室をつなぐ縁側があって、そこにも押入れの奥行きの半畳分の収納が両端に。でも、押入れの奥行きばかりで、使いにくそう。リビングにはクローゼット。できるだけ部屋を広く取り、できるだけ収納を多くしたかったのがよくわかります。その結果、せっかくの広い部屋へ行くまでがしんどいゆとりのない空間になってしまった。
 キッチンはこんな感じ。


 間取り図に間取り図に、ダイニングと仕切る食器棚はありません。


L字型キッチンのコーナーは、デッドスペース。調理台も低め。シンク横に機械がついているから「アイレベルのオーブン?」と期待したら、旧型の食洗機でした。冷蔵庫スペースはコンロ横。シンクの排水口は当然旧型の、ネットをかぶせるタイプで、シンク下にはど真ん中に排水管があります。いくつかの扉は建付けが悪い。建付けの悪さは、他の収納や窓でも感じました。家が建ったのは1991年。外壁はきれいでしたけど、本当ならあちこち修繕しないといけない時期です。
 不動産屋さんに聞くと、オーナーさんはこの家を建ててこの間まで住んでおられ、初めて賃貸に出すそうで、言ってみれば素人さん。そして、家を貸しに出したのは、息子さんが地方転勤になったので追いかけていってしまったからだとか。たぶんお金をケチりたくて(そのわりには家賃が安い)
あまり修繕の要求に応えてくれなさそうなうえ、地方在住だと対応がすごく遅くならないでしょうか。御嶽山の物件のように、前に私が住んだことがある大家さんの2階の部屋でもそうだったように、お金を持った人が息子に執着し過ぎているパターン。オーナーさんは70代だそうです。
 あまりに住む気になれなさ過ぎたので、キッチンを交換できるか、聞きませんでした。カスタマイズされた空間ならではの、誰かにとっての便利は他の誰かにとっての不便のまんまで、食器棚があるために、鍋置き場がつくれなさそうです。家電置き場もちょっと十分にはないかも。そして、隣家と近すぎるために日当たりも悪い。窓も開けるのに気を使います。
 そして、名称は忘れちゃいましたが、2年の更新ごとに再契約を結ぶ形の定期借家権だそうで、安心して住むことができないのが極めつけ。ほんと、オーナー素人です。ないな、これは。あり得ない。
 だけど、物件を見た後、樋口一葉が通った明治時代の建物が残る質屋とか住んだアパートが、どうやら今もシェアハウスかアパートかで使われているらしいことなどを見て、夫が言う。「おれたちに必要なのは、こういう歴史が残っているといった文化的な環境だ」。確かに。古いものが残る街から刺激を受け、新しいことに挑戦する若い人たちが、オフィスや店を構え、本屋があって、アクセスが便利だから人も招きやすくて、そういう情報とか刺激がある場所。そこから私たちも何かを生み出せるかもしれない。消費の場所じゃない、子育てしやすい街じゃない。ショッピングモールより商店街。そういう場所に、腰を落ち着けられたらいいな。



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