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稼ぐ夫は偉いのか

 先日、ビジネスインサイダーにショッキングな記事が載っていました。こちらです。https://www.businessinsider.jp/post-177178?fbclid=IwAR2Xr1mssRs3w9peDtG-NFolXY8jbBLyifyvkwqqnF27CtZ4aNgFH8WoYxs

 「俺と同じぐらい稼ぐんだったら、家事育児をする」と言い放つ夫たちがいるのです。いるんでしょうね、たくさん。フェイスブックのタイムラインでシェアされたこちらの記事には「わかるわかる」というコメントが大量に載っていました。なぜ夫たちは、収入を測って家事育児への参加を決めるのでしょうか。なぜ家庭での働きを軽視するのでしょうか。妻を差別するような言葉を言い放てるのでしょうか。

 昔、私と同世代の1960年代後半生まれの女性たちの仕事と家庭の現状を取材した『ルポ「まる子世代」』(集英社新書)を出したときも、家事シェアの話題について調べました。ちょうど市民団体「『男も女も育児時間を!』連絡会」が二〇〇三年に東京・小金井市で行った調査データがありました。それによると、就労時間の長さより経済力で、夫の家事協力度が違ったのです。まさに「俺ぐらい稼ぐんだったら家事やるよ」という夫たちです。つまりこの頃と、男性たちの意識はさほど変わっていないのです。

下駄をはかせてもらった男たち

 「俺ぐらい稼ぐ」と夫たちは言うそうですが、「俺」の給料は下駄をはかせたものだという自覚は彼らにあるのでしょうか。日本の経済システムは、女性差別の上に成り立っています。女性は進学、就職、昇進、退職と再就職、さまざまな場面で不利なことはよく知られています。

 たとえ総合職など建前上男性と同等でも、仕事のチャンスが少ないなどの経験をした女性は多い。また、家族手当をもらっている男性もいます。より高い所得は男性が得るチャンスのほうが多い。今話題の医学部入試問題ではありませんが、男性たちは男性というだけで下駄をはかされているのです。その条件を差し引けば、もしかすると妻の方が有能かもしれない。何しろ職場では、長時間労働をして飲み会につき合い、休日も働く男性の方が、子どもを迎えるために短時間勤務で効率的に働く女性より高く評価されがちなのですから。

家事をしないのはプライドか?

 女性はずっと差別されてきて、もう半世紀は差別解消のために闘ってきた歴史があります。個人差はありますが、「女らしさ」の縛りが不自由だったことから、従来のジェンダー規範に疑問を抱く女性は多い。そして、自分たちが心地よいように社会を築いてきたはずの男性は、自分たちを縛っている「男らしさ」の窮屈さに鈍感な傾向があります。

 「俺より稼ぐんだったら」と言う男性は、もしかすると、稼ぎがない人間が家事・育児といったお金にもならない労働を引き受けるべきだ、という差別感情を持っているのかもしれません。

 何しろ、資本主義経済のもとで都会で働く男性たちは、たいていの欲望はお金を払えば満たせることを知っている。おいしいものを食べる、快適な空調設備を入れる、寝心地が良いベッドを手に入れる。妻だってもしかすると高所得が約束されている自分だから結婚してくれた、と思っているかもしれない。おれが稼ぐから妻や子どもは幸せでいられるんだ……もしかして、彼はお金に縛られていませんか?

 お金が偉いという価値観なら、お金にならない家事や育児はやるだけ損、と思う気持ちもうなずけます。時間給や月給で計算して、よりたくさん稼ぐ自分は、家事サービスを受けるべき立場にいるはずだ。と思うのかもしれなせん。さまざまなサービスをお金で得られる自分は偉いと思っているのかもしれません。

村社会の会社のせいかも

 でも、もしかすると、男性たちも気づき始めているかもしれません。金を払わなくても愛情をくれる子どもたちと、もっと一緒にいたい。おいしいご飯は、高い店でだけ食べられるわけじゃない。お金に換えられないかけがえのないものはある。

 家事や育児に関心を持っていた男性も、今持っている男性もいます。だけど、周りがそれをすることを許さないのです。周りにバレないように気を使いながら料理教室に通う男性もいます。せっかくつくった弁当を、彼女がつくったと勘違いされた独身男性もいます。

 なぜなら、男社会の職場では、家事をする、育児を引き受ける男性は差別されがちだからです。自分だけが、家の用事のために早く帰ることはできない。それをしてしまうと、堕落した、弱くなったと思われてしまうからです。仲間でなくなったとみなされるからです。男たちは互いにけん制し合って、男らしさを守ろうとします。その輪の中で生き抜かなければならない夫たちは、やがて周りに感化されて「家事なんて収入が少ない妻がやればいいんだ」と思うようになっていくのです。

 どうでしょう。私の推測は当たっているでしょうか?



 


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