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じっくり煮る意味・最終回
9回に渡ったこのシリーズも、今回で最後です。タイトルの意味に立ち戻ってもう少し考えてみたいと思います。
このシリーズは、たまたま鶏肉と栗の煮込みを長く煮たら、むちゃくちゃおいしくなっていたという発見から始まりました。
私はこれまで、noteで家事について考えたことを書き、また『料理は女の義務ですか』で、家事の役割などについて書いてきました。しかし、私はノウハウを教える達人とは、立ち位置が異なります。別に私は家事の達人でも料理の達人でもありません。もちろん、半世紀も生きて家事のキャリアが長い分だけ、もしかすると若い方よりは経験はあるかもしれません。
でも、今でもシンク周りがちゃんとできていない、と夫から小言を言われることもありますし、だいたいは手抜き家事で生活を回しています。近頃は忙しいこともあって、料理の時間が10分、15分なんてこともざらです。えだからこそ、長く煮ることで料理がおいしくなる、なんて、料理好きなら当たり前のことを、びっくりして報告したりしているんです。
本当は、他のことに気を取られて忙しいときは、料理しないほうがいいのではないかと思います。総菜を買う、食べに行く、出前を取るのも、余裕がないときの知恵です。
でも、いろいろな事情で、作らざるを得ないときもあります。買える選択肢に、今の自分を納得させられる料理がなく、つくったほうが確実に食べたいものを食べられる、と思うときもあるでしょう。
そういう現実はともかく、もし料理するかしないかを選べるのだとすれば、逆に料理するのにベストなコンディションとはどういうときかを考えてみます。
それはもちろん、つくりたい料理があってやる気十分、時間もあるときです。誰かに気持ちを伝えたいときもいいかもしれません。「好きな人にご飯をつくってあげたい」なんてときが、その一つですね。自分に満足しているとき、愛情をかけたい相手がいるとき。そう、愛があるときなんです!
そういうとき、料理をとてもていねいにつくったりします。思い出してください。子どもの頃、家族につくってあげたかったとき。恋をしたとき。結婚したばかりのとき。自分の子どもの誕生日。
料理は愛情がなくても、つくれます。ふだん忙しいときにチャチャッと時短料理をするときは、愛どころではありません。そんなときは愛なんてなくていいんです。
でも、たまには自分をいたわるためにおいしいご飯をつくりましょう。家族と大切な時間を共にするために、ていねいな料理をしてみましょう。そんなときに「じっくり煮る」のです。ひと手間をかける、時間をちょっと長くかける。そのひと手間は気持ちに余裕がないとできません。愛があるときしかできません。
そういう時間をまったく取れない日々が続いていたら、思い切って休む時間をつくることです。旅に出て日常から逃げ出すのもいいかもしれません。私は最近、多忙から逃げるのが旅行です。さぼって映画を観に行ってもいいかもしれません。息抜きの時間すら取れないのなら、何かを見直したほうがいいかもしれません。
料理にまったく余裕がない日々が続いて、いけないなと思ったときは、休みましょう。つまり、料理への自分の気持ちが、多忙さや疲労のバロメーターにもなるのです。
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