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理想のキッチン探し⑫・蓮沼

 当分資料を読んで、と思ってバウハウスのことなどいろいろ調べていたのですが、お盆を過ぎたせいか、物件に動きが出てきました。

 毎度、お値打ち物件を見つける天才、日頃から検索能力の高さで私が頼りっぱなしの夫が、「これ、どうや。日蓮宗の総本山、池上本門寺がある池上と何でもそろう、飲食店数2位の蒲田の間で便利で、相場からしたらお得な物件があった。3階建ての物件がどんな感じか観に行くのもいいんじゃないか」というのです。3階を行ったり来たりするのはしんどいんじゃないか、戸建ては物騒じゃないか、面倒じゃないか、などといろいろ難癖をつけがちな私ですが、「3階建てがどんな感じか見る」という誘いに心が動きました。それで昨日行ってきたんですね。

 確かに便利な立地です。路地の間にあって、車がうるさいということもなさそう。しかし、着いたらいきなり家の前が砂利道。私道でここだけ舗装されていないんです。そして、白と青のツートンカラーが美しい隣と比べてなんともみすぼらしい外観。築年数は10年で、オーナーさんが引っ越して貸しに出しているとかで、全然古くないんです。でも……。

 中に入ると、いきなり洗面所が左手に。トイレは階段下。通路を挟んで向かいがお風呂。浴槽は広い。洗濯機置き場の前もギリギリ。着替えは入口の引き戸を閉めて、奥の部屋のところも閉めてする感じ。でもこの通路を通らないと奥の部屋へはいけません。

 奥の部屋は、ウォークインクローゼットがあって、6畳部屋。ガラスの大きな窓があって、その一部が勝手口になっていて、ウッドデッキで道路に面しています。どうやらオーナーさんたちは、ここを出入りによく使っていた感じ。目の前の道路はアスファルトです。でも、いきなり道路……郊外に育ったせいか、3階建ての細長い物件が実は塀がないということの実感がありませんでした。どこに行っても当たり前に観る風景なのに、庭付き一戸建てとのこの大きな違いに気づいていなかった私。

 昔、会社の同僚の3階建ての家にお邪魔したことがあるのですが、1階が音楽室になっていたせいか、あまり気が付いていなかった。そういえば友人宅も。親戚の家でもあった。でも、だいたいLDKが2階以上にあったせいか、1階の実感がなかったのでしょう。このいきなり道路の心もとなさ。人生の多くの時間をマンション住まいしてきた私は、いきなり道路の家をあまり知らなかったと言えます。

 で、2階に上がるとLDKです。パントリーの壁が赤く塗られていて、オーナーさんのこだわりを感じられます。冷蔵庫スペース、戸棚と続き、向かいにオープンなI型キッチン。その前が通路になっていて、階段から登ってきた、あるいは降りてきた家族と会える構造になっています。コンロまわりはしっかり設計されていて、調味料置き場も確保。ガスのちゃんと3口使えるコンロで、真上の換気扇も掃除しやすそう。高さも十分、調理台もそこそこ。シンクもまとも。引き出しの収納力もありそう。そこそこの食洗機もセット。後ろの戸棚の隣に家電置き場の棚も設置。きっとオーナーさんは料理が好きだったんだろうと思わせます。

 リビング側に窓があり、バルコニーがあります。この窓の左側に電信柱があって、目の前に電線が走っています。鳥よけのとげとげもあります。バルコニーに出たらすぐそこに電線……昔、夫が住んでいた部屋へ行く途中の歩道橋が電線間際で、うつになりかけていた私は、そこで何度もつかんで死んでしまいたい衝動にかられました。電線が触れるほど近くにあったら死にたくなるかもしれない……何より洗濯物や布団を干せるのはここだけなのに。しかもその床は格子状で下が透けている。物干しのホルダーの木が壊れそうで低い位置にある……ここで私、洗濯するの?

 3階は広い一部屋になっています。天井も高く、仕事部屋にするならここ。つまり、いきなり出口で道路の1階は寝室。押し入れはないから、布団あるいはベッドが外から見える……。

 すっかり嫌になって私が不満ばかり言ってしまったので、ケンカになりました、また。夫はいろいろ解決策を考えてくれました。勝手口の外には後付けでよく、植木鉢ホルダーにしているようなウッドの塀を置けばいい。2階が気になるなら、上に目隠しをつければいい。3階を衝立で仕切って、半分は私の仕事部屋、半分を寝室にすればいい。今冷静に考えれば、そういう考えもありだと分かります。

 でも、結局私たちはその物件を断りました。入って何だかぞわぞわしてしまったし、こんなにケンカしてしまったのに住むのはよくないだろうということになりました。

 物件探しをしていて感じるのは、住まいやキッチンは、格差社会の現実がもろに表れるものだということです。自分の中の差別意識ももろに出てくる。本当にお金持ちでお金持ち世界しか知らないならともかく、中途半端にお嬢さん学校なんて行ってしまって、ちょっといい世界を知ってしまってそれを自分のデフォルトだと思ってしまっている私。お金を稼ぐのがそんなに得意でもないくせに。幼少期を過ごしたのは、狭いマンションだったけれど、周囲が落ち着いた良質な住宅街だったので、どうしてもそこ基準になってしまうんですよね。そして、実家は3階建てが流行る前の2階建てで塀があって、小さな庭があった。それを求めてしまうのです。

 今回分かったのは、3階建ての狭い土地に建つ物件でも、オーナーさんがおそらく施工過程でだいぶ関わっているときは、ずいぶんつ工夫されている場合があること。1階の玄関、水回りの設計も通路と更衣室を合体させていて廊下なしでも広く使えるようにされていた。2階の通路前キッチンも、恐らく壁づけにしたら狭くなるし、家族の顔も観られないと考えたのでしょう。そして、階段の質も良好。段が歩く際に負担になりません。

 冷静になって考えてみると、私はその工夫がダメな部分もあった。実は前に鶴見で要介護のおばあさまが使っていた部屋も、2つあるトイレの入り口や、支えのポールなどから、そのおばあさんの気配を感じてしまった。今回は、育ち盛りの息子さんたちがいる主婦の女性の愛情と思い入れが残っている感じがした。オーナーさんたちにその気がなくても、きっとそのいろいろと心を砕いて使いやすいようにした工夫点に、その人たちの気配が残るのです。それを私は感じてしまう。ああ、ほんと、繊細っていいことない!

 そして、物件探しは多忙な時期でも続くことになりました。もっといい条件の物件が出現してきたのです!!

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