タアサイ

物語食卓の風景・共働きの2人②

 物語は第二章、東京で夫婦2人で暮らす長女の真友子のエピソードが始まっています。真友子はまだ、父の家出を知りません。ご参考までに先週の記事はこちらです。

 つらつらと昔を思い出してみる。つき合って、お互いの家を行き来するようになったとき、航二の家事レベルはすかさずチェックした。台所がきちんと整頓されていて鍋も置いていたこと、それに対して床にはけっこう髪の毛が落ちていて、料理はやるけど掃除は苦手なのか、私と一緒だなと思ったのは覚えている。つくってくれた焼きそばも、豆板醤と味噌と鶏ガラスープで味をつける麻婆豆腐もおいしかった。この人なら、共働きでもやっていけるって思った。

 結婚してしばらくは、料理は交代でつくっていた。私が平日、航二が週末。週末に掃除機をかけるのは航二、拭き掃除は私。私は平日も時間があるときは、掃除機をかけた。でもトイレとお風呂は航二。買い物は私。かなりちゃんと分担できていたと思う。でも、航二が異動になって夜が遅くなり始め、だんだん週末に家事をするのはしんどいって愚痴り始めて……。

 その頃に、私のブライダル雑誌の仕事も種類が変わったんだった。ウェディングプランナーやお店の取材が中心だったのが、ときどき結婚式の取材も頼まれるようになって、週末に仕事が入るようになった。それで一緒に家事ができなくなって、平日にフォローするようにしたけど、それだと航二に私がやっているところを見せられないし、航二も私に家事やってるぞってところを見せられなくなった。夕方帰ったら部屋が散らかっているから「掃除機かけた?」って聞いたら「ごめん、今日はしんどくて昼まで寝てた」とか言われて。

 カップル取材の場合は、お二人が新婚旅行から帰った後の電話でのフォロー取材が入る。で、夜電話中に航二が帰ってきて、嫌そうな顔をされたことが何度かあった。

「それが真友子の仕事だってわかるけど、疲れて帰ってきたところで、むっちゃ営業モードの声でしゃべっているところにあうと、疲労が倍増する。違う時間帯に電話するとかできないのか」とか言われたけど、電話する日時は向こうの都合で決まるし、向こうのカップルだって仕事があるからオフタイムの時間は同じなのよね。で、なんとなく遠慮してしまって。

 拘束時間が長いこともあって、2~3回断っていたら、ブライダル誌の仕事が来なくなった。他の仕事もあるさと思っていたら、そうも回らなくて収入が半減した。で、それまで家賃を一部私も負担していたけど、それができなくなって。また、週末を一緒に過ごせるようになったのに、航二はだんだん「今日は疲れたから」「そもそもさあ、おれフルタイムで働いて残業もしていて家計の負担も大きいのに、家事も全部折半っておかしくないか? 真友子は家にいるんだろ。家事をする時間は俺よりだいぶあるんじゃないのか?」と言い出した。

 航二の仕事が忙しくなってきて、セックスも疎遠になっていたけど、その頃から完全にセックスレス。いつかは子どもつくるのかなーって漠然と思っていたけど、それどころじゃない。体の触れ合いがなくなってくると、気持ちもつかみづらくなるんだよね。航二がそう言って家事を完全に放棄したときには、どういうつもりかわからなくなった。もしかして、本当に男尊女卑? いや、あの頃は仕事のストレスで顔つきもきつかったから、きっと私にぶつけるしかイライラのハケ口がないんだよって思ったりもした。それに、家賃払ってない、と言われたら何も言い返せなかった。

 そうだった。あれから時間が経って、私の仕事はまたふえたし、航二も帰ってくるのが早くなって仕事の状況は変わったけど、航二は家事をほとんどやらないまま。ゴミ捨てとか、自分の衣類の管理とかぐらいかな。

 航二は会社で役職に就いて、今は課長。給料もそれなりに上がったし、今は若い部下の面倒をみるのが大変とかちらちら言っている。「今の若いやつらは、飲みに誘ってもついてこない」とか「自分の仕事終わったら、こっちが忙しそうにしていても知らんぷり」とか。

 でも私は、毎日何だか疲れちゃって、仕事もキャリアが上がった気がしない。広報誌とか社内報が中心になって収入が安定したせいかな。いつまで経っても「ライターさん」で業者扱いだし、ギャラは上がらないどころかむしろ下がっているし。ブライダルの仕事をしていた頃は、たくさんのカップルを取材したら、「現代若者結婚事情」みたいな本でも書けるかもとか、ふつうの人たちの暮らしをもっと掘ってみたいなとか思っていたはずなのに。そういうのも、社内報の仕事をしていたら、感じることもときどきあるのに。

 航二が、帰ってきてからまだ私が仕事をしている姿を見るのが嫌なんだ、というのは執筆をしているときにも感じていた。それに、家事も2人暮らしと言ってもけっこうあるのよね。買い物して料理して片づけて、掃除機かけて、拭き掃除して、トイレとお風呂も掃除して。洗濯して。細かい雑用もあるし、自治体への手続き関係とか、そういうのも平日動ける私がやるしかないし。

 企画とか、新しい仕事開拓とか、あんまりやる気が起きなくなった。一人のときは、キャリアアップめざしてがんばろうって、資料をファイリングしたりタウンウォッチングしたり、友だちと飲みに行って情報交換したりいろいろやっていたのに。あー、家のことで忙しいなんて、そんなの怠け者の言い訳だよね。結局私にパワーがないだけ。それも実力のうち?

 航二とは、ときどき体の触れ合いも戻ってきたけど、セックスまでは至らない。私もめんどうになってきたし。手を伸ばしてきたときに、私が生理中だったということも、そういえばあった。そんな風になってからよ、お母さんがあんなことを言い出したのは……。


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