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理想のキッチン探し⑲千歳烏山

 引っ越し計画を中古リノベに移して、賃貸は探さない…と思っていたはずが、夫が「こんなん出ているけどな」と見せてくれたのが、千歳烏山の物件。間取りもキッチンも観る前から「え!千歳烏山」とテンションが上がってしまった私。あそこは確かいい商店街があって、前に住んだ友人が愉しんでいた。確かカレーか何か食べに行ったことがある。雰囲気が良かった。京王線だから新宿や渋谷へ安く行ける。それに、その物件からは自転車で成城に住む友家にも行けてしまう。

 物件にはまだ居住中とのことで、とりあえずちゃんとどういう街か観に行って物件も外からでも確かめに行こう、と週末、私たちはバスと電車を乗り継いで行ってきたのです。

 千歳烏山は思った以上にいい町でした。とりあえず、駅の近くのカジュアルなフランス料理店で、薬膳ランチをいただく。カウンター席には常連らしき女性が店主夫婦と話し込んでいます。奥さんの応対もとても柔らかい印象でいいご夫婦で、いい店だと安心できます。滋養によさそうな大根のスープもほっとします。料理もおいしかった。窓から角にある洋服屋を眺めていると、もしかすると昭和の自由が丘はこんな町だったんじゃないかと思えてきました。

 自由が丘にはご縁があって、雑貨や洋服がそろっているからよく出かけるし、商店街振興組合とも仕事させていただいたことがある。当時の振興組合長さんと共著で『自由が丘ブランド』という本まで出しました。

 でも、私が知っている自由が丘は昔を知る叔母からは「昔はいい町だったのよ」と過去形で聞く町。松田聖子の店が1980年代の初めに出来てから観光地化し、住民のための上質な店がずいぶんと減ったそうです。そういう観光地化の波を受けていないと思われるのが千歳烏山。何となく上質な飲食店やファッション、雑貨屋などが並んでいます。大きな書店がつい最近閉店してしまったのは残念でしたが。古本屋はないようです。

 物件への道は、徒歩15分と遠いので、スマホで時間を測りながら歩きました。駅から動いてすぐにいい感じの雑貨屋とパン屋があったので、パン屋でとりあえず食パンを買い、雑貨屋へ。夫がそこで帽子を買いました。キッチン雑貨もいい感じ。パン屋は私にとって重要なアイテムで、近所にパン屋があるかどうかは、必ずチェックします。おいしい食パンがあれば朝食に困らない。今は近所にそれほどいいパン屋はないのですが、でも悪いわけではない。困るのはパン屋がない町で、その場合は出先で買い込んだパンの冷凍でしのがねばならず、出かけないときにたちまち困る。パン屋は必須アイテムです。豆腐屋もできればあって欲しい。今回歩いた中には豆腐屋はありませんでしたが、検索したら千歳烏山にはあるようでした。 

 雑貨屋を出てからもう一度時計を確認。歩いてしばらくすると住宅街に入っていきます。何だかいい雰囲気。夫は「三階建てがないからや。それから知的な感じがする」と言います。何だか文学を感じます。こういうところに住んだらクリエイティブな能力が上がりそう。実は今の町にもところどころそういう雰囲気があって、仕事の質にも影響していると感じています。書くものは住む場所に影響されるのです。

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 いい雰囲気と感じるもう一つの要因は、あちこちに大きな木があることです。武蔵野の面影です。武蔵野の雰囲気が文学なのだとすると、国木田独歩が書いたのもうなずけます。読んでないけど。

 近くの甲州街道は江戸時代から使われてきたわけで、歴史がある町なんです。そして今回は行かなかったけれど、関東大震災後に都心から移ってきたお寺がたくさんある町。歴史の地層がある町です。木を見つけるたびにうれしくなってしまいます。木が好きなんですね。前に野方の物件に惹かれたのも、窓から木が見えたからです。就職した会社も街路樹が社内から見えたので、決めた要素もある私。木がある場所はいい場所だ、と勝手に思っているのです。

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 ちょっと木を撮ったりして寄り道をして15分。物件にたどり着きました。いい雰囲気の低層マンションです。でも、ベランダの目の前に生け垣があって、その生垣のせいでふとんを干すのが難しそうな感じです。1階なんですよね。生垣だけが建物をかこっているので、防犯的にもちょっと不安。治安のよさそうな町なので、そこはそれほど心配しなくてもいいのかもしれませんが。生垣はもう一つある窓も下半分ぐらい覆っています。もしかすると通風もよくないかもしれません。ベランダのそばまで行ってみました。狭い。写真では物干しざおが二つ入っていましたが、他の部屋を見ると一列しか干していないようです。これだけ狭いと毎日洗濯しないといけなさそうです。コインランドリーまでも遠いので洗濯乾燥機が必要でしょう。そして、毎年恒例の梅干しも干せない。

 厳しい。これは厳しい。もう少し奥に駒大野球部の練習場があります。そこまでバスが来ているので、出かけた帰りに買い物をして荷物が重くなったときはバスで帰る手があります。駅から徒歩15分は実家がそうでしたけど、遠いかもしれません。でも、その通り道に嫌な感じがする空間が一切ないというのは、今までほとんど経験がない道です。私が繊細なせいなのか、実は苦手な空間がけっこうあります。三階建て住宅がずらっと並んでいる場所、テラスハウスがずらっと並んでいる場所、つまり金太郎あめの建売の外観が続くとしんどくなります。巨大団地群も同じ意味で難しい。でも、URの物件を見ていると、最近の巨大団地は見た目がしんどくならないデザインを工夫するようになっていることもわかり、ちょっと目線は変わりました。

 あと、空き地、新幹線のそば、駐車場なんかもしんどいときがあります。新幹線のそばは場所によるけど、ちょっと荒れた印象を抱かせることがあります。なぜか新幹線のそばに縁がある私はそこも気になるところです。そういうなんだかしんどい場所が、千歳烏山駅から物件まではいっさいない。

 悩ましいけれど、一度内見したら印象が変わるかもしれません。ベランダの狭さと使いにくさをどのようにリカバリーするか、その日は考え続けました。何とかできるかも! と思っていたら、翌朝、夫が「あの物件、自営業者はお断りなんだって。家賃の滞納者に多かったからって」というわけで、断る前に断られてしまいました。ああ、千歳烏山!

 あとから他にもないか一緒に物件を検索していて、キッチンの狭さを指摘していたら、夫に言われました。「千歳烏山の物件だってこの狭さだったよ。あれでいいんやったら、これもいいんちゃうの?」 なんと!私は住環境に気を取られて、肝心のキッチンをチェックしていなかったのでした。

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