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理想のキッチン探し㊲浜田山

 エリアを広げて物件探しをした去年、夫に言われたのは、私がどういう町でどういう暮らしをしたいのか、ということでした。実を言うと、私は結婚当初、阪神淡路大震災で受けた心の傷が深く、「私なぞが定住してはいけない」という被災者特有の罪悪感から抜け出せていませんでした。その後数年して、うつ病を発症、関連して仕事もスランプで半失業状態に陥るという厳しい時期に10年ぐらいはまり込んでしまい、もがいていくうちに『小林カツ代と栗原はるみ』というヒット作が出て、ひたすら仕事に邁進していくだけという時期が続いていました。
 去年、「食を仕事にしているのに、こんな極小キッチンではいけない!」と目覚めて理想のキッチン探しを始めたものの、まだどこへ住みたいというイメージはありませんでした。
 しかも、長らくトレンドウォッチに向いている、というので城南地区、その中でも東急沿線にこだわって住んできたので、案外ほかの地域を知らなかったんです。でも、他のやはり山手線西側の私鉄沿線を物件探しの過程で歩いてみると、住みやすそうな地域はたくさんあることに気づいたばかりでした。城南地区は土地代が高いせいか、年々金物屋(関西では荒物屋といいますが)やそれに類する生活用品を扱うスーパーが減ってきて、使い勝手が悪くなっていましたし、東急線とはいっても、家賃がお高い東横線や田園都市線のような繁華な街ではないので、買い物できる場所やカフェが少なく、特にカフェはほぼ20年カフェ難民状態だったので、他の沿線で何とも使い勝手がいい場所がたくさんあって、「私は今まで何を見てきたのか」と目からうろこが何枚も落ちたんです。

住みたいいエリア発見!


 それで、でもどこに住みたいのか、答えられない時期が続きました。ところが、今年の春、花見をしようと今まではご縁がなかった善福寺川流域の公園へ行って驚いた。桜並木が続き、緑が多いこの場所は、私が7歳まで住み、その後も大人になって何度も訪ねた夙川周辺によく似ていたんです。ここがいい、このあたりがいい、特に南阿佐ヶ谷あたりなら、交通も便利だし、最近土地勘がついてきた阿佐ヶ谷エリアが使える。とここを目標にしようと決めました。
 そして阿佐ヶ谷の南には、京王井の頭線の浜田山がある。浜田山って高級住宅街らしい、おしゃれな街らしい、というイメージはあっても、行ったことがないのでわからない。そんな私たちの前に、もしかして住んでもいいかも、という物件が現れました。
 3LDK、76㎡の1戸建てです。築年数は古く、1966年に立った家。でも、行ってみると案外きれいですし、とても半世紀も前に建った家には見えない。浜田山駅からも徒歩10分程度で、間に超高級マンション街があって。あの、南阿佐ヶ谷にも野村不動産のプラウドシリーズの超高級マンション街があるんですが、このあたりに二つもそういう巨大開発の比較的築年数新しめのマンション街があるのはなぜなんでしょうね。よく21世紀になってそんな広大な土地があったもんだ。と余計なことも考えますが、まあとにかく駅からの道は快適そのもの。その先に広そうな緑豊かな公園もある。ただ、家のすぐそばに川が流れています。
 不動産屋さんはとてもていねいで、紳士的。前の川は神田川で、昔何度も氾濫して東京都がしっかり補修したので、2019年の大型台風のときは、ここだけびくともしなかったぐらいだそう。
 大家さんは、一族でこの家を管理していて、補修などには手を抜かないそうで、どうりできれいなはずです。一戸建てのオーナー物件の場合、やはり修理などのトラブル対応が心配ですが、前の小石川のときとは全然違うようで、プロフェッショナルオーナーで安心です。
 しかし、今の部屋より狭くなるのと、クローゼットとして使えるのが今の4分の1しかなく、高い位置にある、階段下になっているなど、使いにくそうな場所に散らばっているのが気になります。なぜか玄関収納だけ巨大。玄関収納が巨大な物件はよくあるんですが、どうせなら本棚が欲しい私たちには、広すぎます。下駄箱はちょっとでいいんですよね、私たちは。
 それから西日がよく当たります。庭が形ばかりでコンクリ中心なので草むしりは不要ですが、窓からの景色がしょぼすぎる。よくあることですが。キッチンのシンク前に窓もあるんですが、見えるのは隣の家の壁だけ。
 で、キッチンは、まあまあのL字型。調理台は角まで80センチもあって、広いし、シンクの奥も少し使えるし窓は出窓だし、で便利といえば便利。


 でも、壁付キッチンのDK(LDKとありますが、面積はDK、これもよくある話です)は、収納を置く場所に困るんですよ。コンロ横にはドアがあって水回りがあるので使えないですし。

 うまく棚を組み合わせれば何とかだけど。うーむ。そしてL字のコーナーは一応扉が開くものの、ふだん使わないモノをしまい込んで取り出しにくくなるのが目に見えています。

 やっぱりこれは理想のキッチンではありません。去年、部屋を探す途中で出合っていれば、ここにした可能性もありますが、でもやはり、最初に東京で住んだ部屋が西日の当たる部屋でつらかったので、ないな。
 浜田山の駅前商店街は、仙川とも似ていておしゃれでした。ブティックが数軒に帽子屋、雑貨屋もある。スーパーはしかし成城石井と西友、コモディ飯田であんまり使い勝手はよくないけど。魚屋、八百屋はありました。あとカルディコーヒーファーム。無印はないけど、おしゃれタウンの必須アイテム成城石井とカルディはちゃんとあるんですよね。
 本屋がクセが強いけどやる気がある感じでよかったです。なぜか店頭で青弓社特集。ふつうの本屋にはない、開高健シリーズとかね。でも、欲しい本はたまたまありませんでした。著名文化人コーナーで、小熊英二とかあって、いつかこの棚に入ることをめざそうとか思っちゃいました。
 浜田山には、以前友人からすすめられた紅茶専門店があります。なので喜んで入りました。ファンシーなインテリアで、アフタヌーンティーぽいデザートセットもあったので頼みました。そのスコーンがふんわりしていて、もしかして今までベストぐらいな食感でした。お茶もおいしい。
 でも、南阿佐ヶ谷から自転車で10分かからないぐらいのエリアなので、もしベストな部屋が南阿佐ヶ谷エリアで見つけられれば、いつでも浜田山に自転車で来られます。それは素敵なことかもしれません。いつか掘り出し物を!ちょっとだけ先が明るく見えた体験でした。




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