ジャイアントパンダ
結局のところパンダってなにもの?
パンダ。
この日本で暮らしていてその名を知らぬものもいないだろう人気動物だが、実はどんな生き物よくわかっていない人もいるのではないだろうか。
何しろ妙な生き物だ。
変わった名前・特徴的な模様・変わった食性など、少しは不人気動物に遠慮しろよと言いたくなるくらい個性もりだくさんな生き物である。
今回は、我々が動物園でしか目にできないパンダについて、その発見の経緯や野生での生態を踏まえながら紹介したい。
『パンダ』を巡るあれこれ
パンダと聞いて思い浮かぶのは白黒のあいつだろう、ジャイアントパンダ。僕もその前提でこの記事を書いている。なにしろインパクトがある。
しかし、もともとはパンダと呼ばれていたのは、今日レッサーパンダと言われている生き物の方だというのはご存じだろうか。あの茶色い小さなやつが基底の『パンダ』であり、後から見つかった白黒のやつは大きなパンダ、すなわち ”ジャイアント” パンダであった。
しかし、悲しいかな印象に残りやすいのはやはりジャイアントの方。いつしかパンダといえば白黒の方を指すようになってしまい、もともと基底だったはずの茶色のやつの名には「小さい」を意味する ”レッサー” が冠されるようになってしまった。
Pandaという名前自体は『竹を食べる獣』を意味するネパール語nigalya ponyaから来ているらしい。そんなに似ていないレッサーパンダとジャイアントパンダが同じパンダの名を持つのは、どちらも竹を食べるからである。
基底パンダがレッサーからジャイアントに奪取された証拠は、中国語にも見ることができる。
中国ではジャイアントパンダを大熊猫と書く。熊のような猫のような生き物とのことだが、ジャイアントパンダに猫っぽさはあまり見受けられない。
しかし、もともとパンダという言葉が指していたのがレッサーパンダのことだったと考えればパンダ=熊猫(猫熊)というのも納得できる。あのサイズ感は確かに猫っぽい。
余談だが、台湾では大猫熊と書く。もともと猫熊(猫のような熊)だったのが熊猫(熊のような猫)に変わった過程は、もともと文字を右から読んでいた中国文学が西洋文化の流入に伴って左から読むようになったことに由来するミスなのだ。
アスパラベーコン男子・ジャイアントパンダ
知っての通りパンダの主食は笹である。実に食性の99%をタケ・ササが占めるというのだから驚きだ。
(余談だがタケとササはどちらもイネ科タケ亜科に属する別個の植物であるが、パンダは気にせずどっちも食う。)
なぜ彼らはタケ・ササを食べるのか。野菜中心の生活で健康に気遣っている、などというわけではない。パンダのタケ食は大きな問題を抱えているのだ。
植物は脂質やタンパク質とくらべて構造的に非常に硬い。そのため草食動物たちは植物の吸収を容易にするために、肉食動物よりもはるかに長い消化管を持つのが一般的だ。しかしながら、パンダの消化管は一般肉食動物同等の長さしかなく、食べた餌の吸収がほとんどできていない。
食事で得られる栄養効率が低いため、彼らは日がな一日食事をし続けなければならない。
なぜこんな不便な食へのこだわりを持ち続けられるのか。
2018年に成都ジャイアントパンダ繁殖研究基地が発表した論文によると、パンダがタケを主食に選ぶ理由はむしろその食べにくさにあるらしい。硬いタケをわざわざ食べる生き物は自然界にほとんどおらず、従ってエサの奪い合いにならない。加えてタケには広い生息域と著しい成長速度もある。
いつでもどこでも食べられる、というのがパンダがタケを主食に選んだ理由である。
とはいえパンダもなるべくなら栄養がある部位を食べたいらしく、竹の中でも消化できるでんぷんが多量に含まれる部位を選んで食べている。また、パンダの繁殖期は年に二度あるタケノコのシーズンに当たる。このシーズンは竹よりもタケノコをよくたべ、その栄養素で子育てに必要なエネルギーを補うようだ。
他者との争いを避けるため、自ら食べにくいものと主食とする寛容さは、ジャイアントパンダのイメージそのままだろう。
ところで、巷では見た目が肉食系で中身が草食系の男子を「アスパラベーコン男子」なんていうらしい。しかし、アスパラもベーコンもそれぞれ草食・肉食に捕食される側だろう。草食/肉食のハイブリッドにつけるネーミングとしてはいささか腑に落ちない。一方でパンダは、まぎれもなく見た目肉食の草食系だ。今後は彼らのような存在は、パンダ系男子と呼ばれるべきだと僕は思う。
白黒まだら模様の謎
パンダを人気者足らしめている最大の要因は、あの模様である。間違いない。
シンプルでありながら特徴がつかみやすくかわいい、初めからキャラクター化を運命づけられたような模様である。同じ柄物枠でもシマウマやトラのようなありふれたシマ模様ではない、オンリーワン性まで備える。
ジャイアントパンダの模様は、レッサーパンダにもクマにも似ない。どういった必然性があってあんな模様をしているのかを説明していこうと思う。
パンダの色模様はずばり、彼らがもともと生息していた環境に合わせるためにデザインされている。
動物園でごろごろしているパンダたちだが、彼らはもともと雪深い高山に生息する熊である。体毛のほとんどが白いのは、雪に紛れて天敵をやり過ごすためである。クマ科のパンダに天敵などいるのかと思われるかもしれないが、ジャッカルやヒョウなどの大型ネコ科動物に普通に襲われてしまう。タケしか食べないパンダはそれほど強くもないのである。
では黒い模様は?当たり前だが雪山はとても寒い。目や耳、肩などが寒さで凍えてしまっては大変なので、陽の光で少しでも温めるために重要なところを黒くしている、ということらしい。雪山では黒い岩肌が露出していることが多いので、白黒模様はいい迷彩だ。
結言
動物園で我々を魅了するジャイアントパンダ。その生態は、クマらしからぬ逃げに徹したものであった。そんな彼らにとって、今の人間たちに保護された生活は、まさに理想の物なのかもしれない。
余談だが、いま日本で最もパンダが多い県は和歌山県である。意外でしょ。
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