ざくざく詩作工房 #3

ざくざく詩作工房、第3回です。
今回は、理柚さんのこちらの作品を取り上げます。ご投稿ありがとうございます!

正直に言ってしまいますと、この空気感、とても好きです。語り口が静かで、でも熱さを秘めていて、遠くから響いてくるような。景色も見えてくる、いい作品だと思います。
と、それで終わってしまっては詩作工房の意味がないので、少し細かくみていきましょう。

生温い風
家々からこぼれる
食器のぶつかる音
入浴剤の匂い
騒がしいテレビ
たわいもない会話
湿度
室外機から吐き出される倦怠
居るはずなのに居ないみたいだ
足は砂で汚れて

第二連、描写が重ねられていくのですが、最初の「生温い風」と「湿度」のイメージのだぶりというか、雰囲気の似た言葉の重なりになっていて、拍子抜け感があります。「湿度」に関しては、具体的な描写が続いてるなか、ぽんと置かれているので、そこまで繋がっていた読み手のイメージがふっときれる感覚もありますね。次の行の「倦怠」(この行の表現はとてもよいので尚更)に向けて、イメージを途切れさせない表現もいいかもしれません。

「ここから
「どこかへ
「遠くへ
「なんでもいいから

ここからタイトル、特に『」』が繋がっているのだ、ということが分かります。トリック、と言えるかもしれませんね。あえて言わせていただくなら、「」にこだわらずとも、読み解けるひとは読み解ける部分でもあると思います。理柚さんが一番やりたかった表現なのかもしれません。ただ、この連の「言ってみたくなる言葉」たちと、読み手が最初に出会うタイトルの、『」』に対するなぜだろうなんだろう、と思った違和感の、釣り合いがとれていないように思うのです。違和感の方が、読み終えてもまだ勝ってしまう。とてももったいないです。ここまで書ける方なら、トリックを使わずとも表現できるはず、とも思いました。

私がよくお話ししているエッセイ、レイモンド・カーヴァー『書くことについて』にこうあります。

作家のジェフリー・ウルフが、創作科の学生たちに向かってこう言うのを耳にしたことがある、「安っぽいトリックはなし」と。

今回の表現を安っぽいとは思いませんが、トリックがトリックとして強く印象付けられ「過ぎて」いて、せっかくの詩自体のよさを味わえなくなっていると言えるかもしれません。

最終連の着地もきれいにまとまっています。
読み終わった後、読み手が何を感じるか。
理柚さんが伝えたかったのは、謎解きではないはずです。

以上です。

引用したエッセイは、こちらにおさめられています。

ファイアズ(炎) (村上春樹翻訳ライブラリー) レイモンド カーヴァー https://www.amazon.co.jp/dp/4124035039/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_a-pzDb05S3SQW

それでは、#3 はこの辺で。
いかがだったでしょうか、ご自分の作品に、書き方に、活かせそうなものがあったなら、とてもうれしいです。
引き続き作品も募集していますので、どうぞお気軽に書き込んでくださいね。

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