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常世のがたり 第3話「救う力」/創作大賞2024 漫画原作部門応募作品

川沿いをひた走るピーチT。
サR、キG、Eヌもそれに続く。

脳裏には
モニターに表示されたオヌビトの検出信号。
「おぬしに守れるかね?」というキキョウの顔。

スラムの方角で、
ドォォォォン!という轟音と煙が上がる。

Eヌ「ああ!!」
ピーチT「おやっさん、サナ」

モニターを見つめるキキョウ。
「我が孫よ、どうする」


スラムでは怪化したオヌビトが出現し、
暴れ回っている。

スラムの人たち
「わあ〜!」「ぎゃあっ」「にげろ!」

女の子「お母さんっ」
瓦礫につまづき、倒れる母親。
母親「にげて!」

その背後にオヌビトが迫り、
鋭利な爪が露出した手を振り上げる。

女の子「だれかぁ!」

ドーーーーン!

ピーチTが右腕全体を筋力強化し、
オヌビトにショルダータックル。

ピーチT「 Eヌ! キG!」

Eヌ・キG「がってん!」

Eヌは母親を背負い、
キGは女の子を抱きかかえ、その場を離れる。
サRが誘導する。

ピーチTは着地し、手をグーパー。
それから左右の腕を筋力強化。

ピーチT
「うん、もどってる」
「それ任せた」

サR「任すっていわれてもなあ」

ひとまず少し離れた建物の裏に母子と隠れる。


ピーチTはオヌビトを見つめる。

ピーチTのM「お前も同じ?」
昨日のオヌビトを思い浮かべる。

ピーチT「とりあえず止める」

突進し、オヌビトの顔面にパンチ。

がオヌビトはノーダメージで、
逆に痛烈なパンチをピーチTに見舞う。

ピーチT「ぐえっ」

キキョウ
「真筋戦化(しんきんせんか)だけでは
脅威評価Bには太刀打ちできんよ」

ピーチTはなんとか立ち上がり、
オヌビトに立ち向かう。

が攻撃を繰り出すこともできず、防戦一方。
直撃こそ避けるものの、
削られるようにダメージを負っていく。


サR「やべえ、こっちからもきやがった!」
ピーチTの背後に別のオヌビトが現れる。

ピーチTのM「きた」

前後を挟まれ、
後方のオヌビトの一撃をまともに食らう。

ピーチT「ぶふっ!やばっ」

サRらが見守る中、
ピーチTはふらつきながらも立ち上がる。

全身血まみれで血を吐き、
朦朧とする意識の中で周囲の気配に耳をすませる。
何箇所かで轟音が鳴る。

ピーチTのM
「あっちに1体、向こうは2体…」
「足して…えっと…5…か」
「たしか…全部で7…だからええっと…」

突進するオヌビトの一撃を食らい、
また吹っ飛ばされる。

ピーチT「ぐはあっ」
血を吐きながら、放物線を描いて飛んでいく。

女の子「きゃあ!」

瓦礫の中でぐったりしながら
ピーチTのM
「2足りない…」
「でも仕方ないか」

ボロ雑巾のようになりながら立ち上がると、
2体のオヌビトの攻撃をかわしながら後退していく。

キG「ピータ、何を…!」

お供3人が建物の陰から出てピーチTを追う。

女の子も飛び出して追う。
母親「ダメよ!」

Eヌ
「ああ!? そっちには別のがいるよ!」

サR
「まさかあいつ!?」

ピーチTのM
「よし3人目…」
「4人…5人…」
「このままスラムの外まで」
ピーチTは自らをオトリにしてオヌビトたちを集め
スラムから遠ざけようとしている。

サR「なんてムチャしやがるっ…!」

キキョウ「ほう…しかしそう甘くはないぞ」

オヌビトの攻撃をかわし、着地した瞬間、がくんと膝から崩れ落ちる。

ピーチTのM「やば…血流しすぎた…」
その場で両膝をつき、ぐったり。

そこへオヌビトたちが飛びかかる。
女の子「たすけてええ!」


ウラシマ「まかせなあ!」
戦闘モードでヤンキー口調。

神々しい2つの光が周囲に広がる。
女の子「えっ?」
サR「これはっ」

ピーチTは両膝立ちのまま、意識朦朧。

シキガミ化したウラシマとイッスンが現れる。
ウラシマは和風海賊風の装束。
イッスンは烏帽子+直垂ベースの装束。
2人とも身長180〜190cm程度の逞しい肉体に。

ウラシマ
「恐れ慄(おのの)け!
そこのけそこのけ火蛇(ひへび)が通る!
シキガミ四式ウラシマ!」←決めゼリフ

「雲海霧散(うんかいむさん)!
火炎蓬莱(かえんほうらい)!!」←技名

玉手箱から濃霧を立ち込めさせ、
その中に3体のオヌビトを封じ込めると
火を帯びた蛇のようにうねる釣り竿を
鞭のようにしならせ3体を打ち倒す。

イッスン
「不実を呪うより
真(まこと)を知らぬ
蒙昧(もうまい)を恥じなさい!」
五式イッスン!」

「天空通貫(てんくうつうかん)! 難波之黄矢(なにわのこうし)!」
縫い針を大きな光の矢に変え、宝弓につがえて放つ。
針に通った糸のような曲線の軌道を描いて、
2体のオヌビトを貫き倒す。

サR「とんでもねえ…」

ウラシマとイッスンは
膝立ちのままのピーチTのもとへ。

ウラシマ「テメーの無力さが身にしみたかぁ?」

サR「なんかキャラちげーな…」

ミズノ(カメ型獣人)
「旦那様は戦場では猛々(たけだけ)しくなられるのです」

キG
「猛々しいというか…あれはただの輩では」
ウラシマが「ああん!?」とピーチTにメンチ切っている。

イッスン
「弱すぎますねえ。
力を秘めているだけでは無意味。
“正しく”使えなければ誰も救えないのですよ」

スミエ(ウシ型獣人)
「ご主人様、お見事でございました」
紅茶にミルクを注ぎながら、
スミエ「おいしくなぁれ、モゥモゥ♡キュン♡」
イッスンは紅茶の香りを嗅いでから、一口飲む。
イッスン「ありがとう、今日も美味です」


ピーチTのM「正しく…?救う…?」

ピーチTは同じ姿勢のまま、
両手の拳をギュッと強く握りしめる。
オヌビトらをあっさりと殺させてしまったことが
悔しくて情けない。

ウラシマ「あと2体か」
イッスン「余裕でしょう、彼なら」


スラムの別の場所。
サナと数人の獣人の子どもたちが
2体のオヌビトに追い詰められている。

サナ「来ないで!」
子どもたちをかばうように両手を広げる。
にじり寄る2体のオヌビト。

オヌビト「ぐぬあああう!」
1体のオヌビトが雄叫びを上げ、腕を振り上げる。

サナはグッと目をつむる。

獣人の子どもたち
「わゃあああああ!」

ドーーーーーン!
という衝撃音。

サナがゆっくりと目を開くと、
目の前に大きな毛むくじゃらの生き物。

キンピラ(クマ型獣人)
「みんな、もう大丈夫」
両手でオヌビトのパンチを受け止めている。

キンピラ「よし、結びの一番だ!」
と言うと、そのオヌビトを放り投げる。
キンピラ「へへ〜ん、ボクの勝ちぃ」
手刀を切る。

キンタ「すまぬ、遅くなった」
サナの前にスッと立ち現れる。

サナ「あなたは…!」

投げ飛ばされたオヌビトも立ち上がり、
2体が左右に並ぶ。

キンタ
「主に念ず、福徳之神吉大将大无成!」←変化の呪文。

生体デバイス
「シキガミ二式開放」
「“貴人”来臨!」

キンタの全身から神々しいオーラが放たれ、
左胸にある菱形の腰かけ型のアザ(聖痕)と
マサカリ(聖具)がまばゆい光を放つ。

足元から高貴な装束に替わり、
筋肉が硬質化していく。
十二天将の主神で、
富や豊穣、福徳を司る「貴人」の化身。
第1話では果たせなかった完全体を見せる。

獣人の子ども「きれー」「わああ!」
サナも目を細める。

2体のオヌビトは少したじろぐも、
同時にキンタへ襲いかかる。

キンタ
「我あまねく真人の富と実りの依代(よりしろ)たらん!」
「シキガミ二式キミトキ!」

「北斗真閃(ほくとしんせん)!
倶利伽羅金斧(くりからきんぷ)!!」

キンタの構える大マサカリが黄金に輝き、
2体のオヌビトを十字と×字に断ち切る(米の字)。
エフェクトで周囲に稲穂や黄金が舞い散る。

獣人の子ども「わああ!」「すごいや!」

バラバラになって崩れ落ちる2体のオヌビト。

サナ「あ…ありがとう」

キンタ「礼にはおよばない」
サナを一瞥して歩き去る。
キンピラが「まったね〜」とサナたちに手を振り、キンタについていく。


夕刻、ピーチTは戦闘があった場所で
サRらの手当を受けている。

ウラシマもイッスンも
すでに通常形態に戻っている。

ミズノ「ピーチT様は大丈夫でしょうか」
ウラシマ「まあタフそうだし」

イッスン
「平気ではむしろ困るんですけどね。
恥じてもらわないと」

そこへ通常形態のキンタが
キキョウを伴って現れる。

キンタは虫の息のピーチTを見下ろす。
ピーチTの表情は陰になっていて見えない。

キンタ
「思い知ったか…己の無力さを」

サRとキGが憎たらしそうにキンタを睨み上げる。

ピーチTの呼吸音が聞こえる。
Eヌ 「ピータ…」

ピーチTはゆっくりと立ち上がり、
サR「おい、無理すんなっ」
ふらつきながらキキョウの前に進む。

顔を上げ、キキョウをキッ!と見る。
止まったばかりの血がまた額から流れる。

キキョウ
「再度問おう」
「ほしくはないか、大事なものを守れる力を」
「知りたくはないか、おぬし自身のことを」

ピーチTはオヌビトの亡骸に目をやり、
またキキョウに視線を戻す。

ピーチT「さっきの続き」

キキョウ「?」

ピーチT「質問」

ウラシマ「あのガキッ」
不良モードが出ちゃう。

ピーチT
「頭いいなら知ってる?」
「こいつらを救う方法」

キンタ「何?」
ウラシマ・イッスン「えっ?」
彼らは怪化したオヌビトを退治するためだけに選別され、鍛えられた存在。「オヌビトを救う」という考えなど思いもしない。

キキョウ「なぜそのようなことを」
ピーチT「知らないの?」
ゴフッと口から血を吐く。

キキョウは軽くふぅと息を吐く。

キキョウ
「ないものを知ることなどできぬ」
「が…私とともにあれば彼らを知ることはできよう」

ピーチT
「何でも知ってるわけじゃないんだ」
「……わかった。やる」
サRらは「えっ?」と驚く。

ピーチT
「でも都には住まない」
「守るものは自分で決める」

ウラシマは眉をひそめて舌打ち。
イッスンも不快そうな表情。
キンタは不思議なものを見る目になる。

キキョウ「よかろう」

ピーチTはようやく少し気を抜いた表情になる。

ピーチT「そういや…あんたんところのメシ…」
キキョウ「?」

ピーチT
「あんまうまくない。教えてあげようか?」
「おやっさんが…だけどさ…」
気を失ってバタンと倒れる。

ウラシマ
「こいつ、ぶっ倒れるときに言うことがそれかあ?」

イッスン
「まったく…理解に苦しみますね」

キンタ「……」

つづく

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