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個人的2021年のGTドライバー十選

Honorable Mentions
2021年はGTレーシングにとって転機となる年となった。それは、2023年限りでのGTEの廃止と2022年からのIMSAでのGTDプロクラスの新設により、10年以上に渡るGTEとGT3の併存状態にようやく終止符が打たれる運びとなった点においてである。避けられない趨勢であったとはいえ、時計の針をいくらか進めたのはLMH/LMDhを見据えたメーカーの動向であったことは疑いようがない。具体的に名を挙げるならば、アストンマーティンはWECから、ポルシェはIMSAからGTEのワークスチームを撤退させ、BMWはIMSAの体制を大幅に縮小した。

これらの変化が本稿に与えた影響は大きい。IMSA・GTDクラス王者であるローレンス・ヴァンスールをはじめ、アール・バンバーニッキー・ティームマキシム・マルタンがフルシーズンのGTEシートを得ていた場合、その時にはこのリストにある名前と順位は大幅に入れ替わったものとなったであろう。彼らはよきファクトリー契約のドライバーとして、マシンに乗り込んだ時、いかなる場やチームであろうと常に印象的なドライブを見せた。

彼のWECとGTワールドチャレンジ・ヨーロッパでのチームメイトがトップ10に含まれているにもかかわらず、ニクラス・ニールセンの名がないことに対する批判については甘んじて受けざるを得ない。彼はアマクラス王者である83号車の明確なるチームリーダーであった。ミゲル・モリーナはAFコルセのウイングマンだと一般的に考えられている以上の存在であったことは確かで、ELMSでは最高のGTドライバーとしてタイトル獲得に貢献した。F2からやってきた新顔、カラム・アイロットはインディアナポリスの勝利を手放すこととなった周回遅れの処理を除いて(もっとも、彼よりも遥かに経験豊富なドライバーを含めて皆混乱していたレースであった)、非常に堅実なルーキーシーズンを過ごした。

スパ24時間の平均ラップタイムで最速のドライバーであったベン・バーニコート、ニュルブルクリンク24時間のポールシッター、ニック・イェロリー、北米での初シーズンで印象的であったロス・ガンもまたランクインを強く主張する正当な理由を有している。この場で取り上げるにとどめたのは、彼らに何か瑕疵があったというよりもむしろ彼らの参戦したレースや体制、あるいは最終的なトロフィーの有無によるところが大きい。

マロ・エンゲルルカ・シュトルツの2人を分割して何か評価を下そうとすることはほとんど不可能かもしれない。彼らはほぼ全てのレースで車を共有し、シーズンの前半に相次いだ不運に乱されることなく非常に高いレベルの後半戦を過ごした。通常エンゲルがリードドライバーを務め、2人がライバルとなった稀なレース――デイトナ24時間での勝利への貢献のために彼を一段高い所に置くことも可能であるが、同時に彼が起こしたニュルブルクリンク24時間における首位走行中のクラッシュを見過ごすこともできない。

なお、GT3規定に装いを変えたドイツツーリングカー選手権でのパフォーマンスはこのリストにほとんど反映されていない。ケルヴィン・ヴァン・デル・リンデはそのタイトルを決定しようとした方法――あるいはタイトルを失った方法――のため、彼の輝かしい経歴にひときわ大きな黒いしみを作ったが、とはいえシーズンは95%まで完璧であった。スパ24時間での55番グリッドからの力強い回復だけを取ってもここで言及する価値はある。翻って彼のライバルであったリアム・ローソンに対し、ストレートスピードとピット手順の両方でライバルよりも明らかな優位を有していたと批判を投げつけることもまた容易い。しかし、それだけが彼の快進撃を説明するものではないだろう。ローソンが上回ったライバルは大部分GT3マシンもしくは選手権に非常に精通したドライバーであった。マルコ・ヴィットマンはBMW陣営とクラス1出身者の両方で傑出した存在であり、スプリント向きでないM6に乗りながら終盤までタイトルを狙う位置にいたことは驚くべきである。


10. リカルド・フェラー
フェラーを期待の若手としてではなく、トップドライバーの一人として扱わなければならない日がついにやって来た。GTマスターズとGTワールドチャレンジ・シルバーカップのタイトルを獲得した21歳の青年は単にトロフィーを家に持ち帰っただけでなく、王者に値する以上の走りによってそれを勝ち取ったのである。ザントフォールトでの支配的な総合優勝と翌日の16番グリッドから2位へのジャンプアップは今年のハイライトであった。フェラーが予選アタックとスタートを担当した土曜に対戦した相手は日曜よりも多少見劣りするものであったという留保は可能かもしれないが、スパ24時間のポールシュートアウトでの印象的な4番手は彼の速さがワークスのスターたちと比べても少しも劣らぬことを示している。GTマスターズにおいてもフェラーは最多となる3度のポールポジションを獲得し、先頭からスタートした時は勝利を誰にも手渡さず、そうでない時も常に得られるベストの順位で帰ってきた。


9. アレッシオ・ロヴェラ
アナス・ミラビリスになぞらえられるべき一年を過ごしたもう一人のドライバー。イタリアGT選手権とカレラカップ・イタリアでのチャンピオン経験にもかかわらず、12ヶ月前に彼の名を知るものはそれほど多くはなかっただろう。ロヴェラは今年初めて国際レースの場に本格的に姿を現し、一年の間にGTレーシングのトップレベルにしっかりと地歩を固めた。彼はGTEとGT3の両方で速さと一貫性を見せ、WECのモンツァとル・マンでは83号車の優勝の原動力となり、スパ24時間でも最速のドライバーの一人として52号車をクラス優勝に導いた。特筆すべきはシーズンを始めるレースとなったWECスパ6時間であり、最速ラップとベスト30周の平均タイムの両方において、ケビン・エストレを除くすべてのプロクラスのドライバーを上回るタイムを記録した。一年の終わりにコンペティツィオーニGTの名簿に追加されたことは今年の彼の活躍に対する正当な対価である。


8. ドリス・ヴァンスール
ヴァンスールと僚友のチャールズ・ヴェールツは2ラウンドを残したニュルブルクリンクでGTワールドチャレンジの総合タイトルを決定した。とはいえ、彼らのタイトル獲得への道程を特徴付けたのは有無を言わさぬ速さというよりも一貫性を持ったアプローチであり、それ以上にメルセデスAMG勢の取りこぼしとヴェールツの成長に支えられた部分が大きい。ニュルブルクリンク24時間とバレンシアのレース2で特に姿を現したように、ヴァンスールにはまだ克服すべき粗削りな部分があるとはいえ、それでもなおGTワールドチャレンジに参戦した中で最速かつ最高のアウディドライバーであった。しかし、彼の今年最高の一ラップは普段乗り慣れたアウディではなく、911 RSRのハンドルを握った時に生み出された。初めての車、経験をほぼ持たないサーキットという条件の下、ヴァントールが並み居るワークス車両を押さえてハイパーポールの一番時計を記録すると予想した人は皆無であっただろう。


7. マシュー・ジャミネ
ジャミネは傑出した走りを見せたたった1つのレース――しかも結果には残らなかった――だけでこのリストに名前があるべきドライバーである。けれども、そのように述べるのは2021年の彼を誤解することに繋がりかねない。彼は参戦したレースすべてで常に最高のパフォーマンスを発揮しており、レッドブルリンクでの芸術的なバトル、あるいはポール・リカールで勝利を狙う位置へとマシンを進めたスティントを語る方が遥かに適切だとも言える。しかし、IMSAライムロック戦は未完の物語であるが故に彼のベストレースとして取り上げることを許してほしい。ジャミネは赤旗が提示されるまでの50周をまるで予選アタックのように走り、コルベットの2台に対して最大40秒あったギャップをおよそ半分に縮めた。レースが再開されていたならば、そこから勝利を奪うことは遥かに容易だっただろう。ジャミネがヴァイザッハのブランドを代表するドライバーとなる日はすぐそこまで来ているように思える。


6. ラファエル・マルチェロ
今年のマルチェロはあたかも驚嘆と狂気との分水線の上に立っているかのようであった。ブランズハッチの土曜日はその典型であろう。16秒差でマシンを引き継いでからの20分間、マルチェロはなぜ彼が当世最高のGT3ドライバーの一人とみなされているのかをこれ以上なく明白に示す走りを見せた。彼は妥協のないラップを重ねに重ねて88号車の負債を埋め戻し、首位の背中に迫った。問題はリードを奪った方法である。チェッカーを受けた後に手渡されたペナルティは決して不当なものではなく、また、彼がクリス・ミースやニッキー・ティームからの批判にもかかわらず彼のレーススタイルを枉げなかった帰結でもあった。2021年はマルチェロの疑うべくもないスポーツカードライバーとしての素質と影のように付きまとうささくれ立った一面の間の矛盾がこれ以上なく露になった年であり、彼がその対立を調和できた時、アルデンヌの薄闇に輝いた報われることのないポールラップは勝利へと姿を変えるに違いない。


5. ミルコ・ボルトロッティ
GTワールドチャレンジで4位、GTマスターズで5位という年間成績を「素晴らしい」と形容することはややためらいがあるものの、今年のボルトロッティはタイトルを獲得した2017年と同じくらい素晴らしいものであった。それがGTEマシンのハンドルを握らなかったドライバーの中でボルトロッティを最も高い順位に配置した理由である。彼は特に予選において最速のGT3ドライバーであり、FFFレーシング63号車が5戦中4戦でポールポジションを獲得したのはひとえに彼の貢献によるところが大きい。決勝でもボルトロッティは常に速く、かつ非常に信頼のおけるドライバーであった。アウディとの短い蜜月から出戻った今年、シーズンはメカニカルトラブルと些かラフなチームメイトのためにひどく妥協せざるを得ないものとなったが、ドイツツーリングカー選手権への一戦限りの出走で見せた卓越したレースクラフトはボルトロッティの真骨頂であった。


4. ジェームズ・カラド
カラドとそのチームメイト、ピア・グイディはWECのGTEクラスにおいて最も高い水準でマッチしたコンビであり、51号車がル・マン優勝とWECタイトルの双方を獲得したのは、後知恵に過ぎないとはいえ蓋然的であったように思える。2人が2017年に初めて車を共有して以来、彼らの走りに決して弛みを見ることはない。バーレーンのレース1のような状況でさえ、彼らは卓越した労働倫理の下にレースを戦い、マシンから得られる最大限のものを引き出した。彼の予選アタックはエストレによって凡庸なものに見せられてしまったことは多かったが、ポルティマオと二週目のバーレーンの序盤でスティント全体をよく管理することでそのエストレを交わし、優勝への道を切り開いたのはカラドであった。彼のフォーミュラでのバックグラウンドとジャガーでのフォーミュラE経験、そして優れた耐久ドライバーとしての能力、これらすべてが彼を来たるフェラーリLMHの最適任者として示唆しているように見える。


3. ニック・タンディ
タンディのボウタイ軍団での一年目は最終成績が示すよりも遥かに実り多いものであり、彼が長年の雇用主であるポルシェから離れたところであっても変わらずトップドライバーであることを証明した。タンディの乗り込んだ4号車は一年を通じて彼の責任にない様々な不運のために多くの勝利を逃し、そのために僚友のタイトル獲得を脅かす存在とはならなかったものの、タンディは移籍してすぐにコルベットを自身の手中に収め、ル・マンでは平均ラップタイムで最速のGTEドライバーとなった。タンディは一方で古巣とも良好な関係を続けており、スパ24時間ではヴァンスールの負傷離脱によりマルタンとの2人体制でレース後半を戦い抜き、手に水膨れをつくりながら4位でチェッカーを受けた。彼のウェットコンディションでの傑出したドライブは優勝と2位を獲得した過去2年に些かも劣るものではない。2022年のコルベットのWEC進出において彼が果たす役割はおそらく計り知れないだろう。


2. アレッサンドロ・ピア・グイディ
繰り返しにはなれど、WEC戦でのはたらきに関して、ピア・グイディとチームメイトのカラドに優劣をつけることは難しい。彼がカラドを上回って次点に位置しているのは、ひとえに今年のピア・グイディがカラドよりも幅広く活動し、その全てで至極のドライブを見ることが出来たからである。彼はGTワールドチャレンジのタイトルを獲得し、AsLMS、IMSA、ELMSにスポット参戦した際、常に最速に位置するドライバーであった。WECモンツァ戦の大半に渡って展開されたポルシェとフェラーリのバトルにおいて51号車側の主演を務め、92号車を操るエストレを追い詰めたのは彼であったものの、しかし、ピア・グイディのベストレースがスパ24時間であったことに異論を挟む者はいないはずだ。残り9分、フルウェットのブラン・シモンでアウト側から首位を奪ったオーバーテイクは今年のハイライトとしてだけではなく、スパ24時間の長い歴史において最も劇的なシーンの一つとして記憶されるべきである。


1. ケビン・エストレ
ポルシェ92号車がWECのタイトルを逃してもなお、エストレが世界最高のGTドライバーであると断言すべき理由は十分にある。とりわけ、今年の彼はトップを争えるマシンを持つ時に何ができるかだけではなく、最善の状態にない時に何ができるのかを示した。すなわち、ポルシェのレースペースがフェラーリやコルベットに遠く及ばない時、チームの中でエストレのみが他のライバルに匹敵するタイムをひねり出す場面は珍しいものではなかった。彼の走りは通常崇高ではあったものの、決してエラーと無縁だった訳ではなく、特にハイパーポール中のインディアナポリスでのコースアウトは週末全体を危険に曝した。しかしそれでもなお、困難な気象条件下にあったノルドシュライフェで4周の内に10台を交わしてマンタイを首位へと導いたファーストスティント、あるいはWEC開幕戦で2番手に1.1秒差をつけてポールポジションを獲得した予選アタックを見せられてなお、エストレをこのリストのトップに選ばない理由があるだろうか。

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