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ファミレス

今回も、2007年ごろのノートより。

このところ駅向こうのファミレスに行く機会が立て続けに2回あった。立て続けといっても先月一度行っただけだが、この地に住んで5年間行ったことがなかったのだから、月1回、2回連続は立て続けと言っていいだろう。
そこに行くときは大抵夜0時過ぎてからで、意気消沈していることが多いから女一人でも目立たない店としてつい選んでしまう。
でもいつも入った途端にしまった、と思う。
まず、床が汚い。
25㎝四方のチェック模様のカーペットの2マスに一つは手で拾えるゴミが落ちている。
ほとんど散乱しているというレベルだ。
店に入っても店員は出てこない。
やっと出てきたと思ったら中国人のようで日本語がおぼつかない。
両手にトレイを持ってなんだか哀しそうな目をしているので変な席でもつい言われるがままに座ってしまう。

実はここに来るには理由がある。
家に一人でいるときにGが出ると、来るのだ。
今日も出た。
パソコンに向かいながら何気なく後ろのテーブルの上の携帯を取ろうと振り向くと居間の真ん中を紛れもないGがサササッと横切って蚊取り線香を立てていた植木鉢の下に敷くお皿の影に身をひそめた。
一瞬体が凍ったが、ゆっくりキッチンに行き「ゴキ包〈パオ〉」を手にするとありったけの勇気を振り絞ってかけた。
白元アース「ゴキ包」は白い泡でGを一撃し本体を見ずに捨てられる画期的な殺虫剤というのが謳い文句である。
が、こちらの気概と関係なくノズルからはひょろひょろとやけに細い線が出る。
危険を察知したGが蛇行しながらこちらに向かってきたが怯まずかけ続け、その軌跡通りに「ゴキ包」の線も続くが、かすりもしない。
そのまま棚の中に消えたようだ。
注視していたが変化がないので再びパソコンに戻ろうとしたら、棚の前に平然といるのが目に入った。
慌ててテーブルに登って今度は上から「ゴキ包」をかけ始めた。
DVD プレーヤーのアダプター付近に隠れたようなのでここぞとばかりにかけ続けた。
が、白い泡の中からノソノソ出てくるではないか!
何が「泡で固めよう」だ!
何が「動きが即座に鈍くなります」だ!
悪夢のような光景を消すためにそれでも必死にかけ続けたが、ただでさえ細い、文字でも書けそうな軌跡が途切れ始め、そのうちプスプスといやな空気を漏らし始める。
Gも一応ひっくり返ってみたりしてみるものの、どうもおふざけで付き合ってやってる風だ。
死んだふりをしてわたしがいなくなったら逃げようと思っている気がする。
ええい、Gをケーキみたいに飾り立ててる場合じゃない!
急いでキッチンにとって返し「ゴキジェット」を手に戻ってきた。
待ち伏せ用の細いノズルがついているが今は取ってる暇はない。
とにかくひたすらかけた。
手首が痛くなるほど、水煙がたつほど、口のなかが痺れてくるほどかけた。
一応、動かなくなった。
が、まだ死んでいない気がする。
とりあえず、口のなかの痺れは「ゴキジェット」のせいの気がするので洗面所でうがいをした。
そしてそのままバッグを手に外に飛び出したのだった。

そういえば晩ごはんがまだだったことに思い至り、鶏と豆腐のハンバーグ御膳とドリンクバーを頼んだ。
ドリンクバーにはグラスが並んでいるはずのトレイが空だ。
これもいつものことなので食洗機用のカゴから取り出す。
ボタンを押してドリンクをつぐマシンは洗われていてこれも空。
席に戻ると向かいのテーブルの食器がそのままなことに気が付く。
我が家の居間よりこの店の方がずっとGが似合う。
いつ出てもおかしくない雰囲気だ。
でも、今のわたしは断然こちらを選ぶ。
とにかく誰かといたい。
傷ついた気持ちを慰めてくれるのは見も知らない人の笑い声なのだ。

御膳が来た。
想像していたほどみすぼらしくはない。
醤油には「有機しょうゆ」と書いてある。
有機とか気にする前にフロアの掃除をして欲しい。
店長はどんなやつなんだろうと注意して見ていたら、四十過ぎで茶髪の覇気のない目をした男性だった。
店のあちこちから韓国語が聞こえてくる。
この辺りは韓国人の居住率が高い。
彼らは店員が来ると流暢な日本語を話す。
中国人の店員に韓国人の客が日本語で注文する。

それにしてもこんなに汚い店でよくこれだけの客が来るものだ、と自分を棚に上げて思う。
どこかに1,000円でGを処理してくれる人はいないものかとも思う。
店内のBGMがやたらにデカい。
トロピカルティーとやらをおかわりしようか悩む。
もう一杯だけなら、飲んでもいい。


【本日のスコーピオンズ】
46曲目「Midnight Blues Jam (Demo)
5th アルバム『〜暴虐の蠍団〜Taken by Force』(1977)より。
かなり期待をもたせるタイトル。
と思ったけどちょっと印象が違って、いなたいブルースロックという感じ。
テレ東『ゴッドタン』の名物企画「芸人マジ歌選手権」の
フットボールアワー後藤輝基の「ジェッタシー」とか「ヘブリカン」辺りを
想起させると言ったら怒られると思うけど、
彼がリスペクトするBLANKEY JET CITY的な世界観といえばいいか。
いや、それを言うならスコーピオンズの方が先か。

感想は以上です。

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