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ジェームスヒストリー_ジェームスが出来上がるまで〈幸重編〉

これは、ジェームス秋山が、ジェームスになる前。
子供時代の秋山真哉と叔父幸重のお話。

×  ×  ×

夜の闇の中、おびただしい数の鉄の塊が集うコンテナ港。
どこかから聴こえてきたのは、イーグルスの『ホテルカリフォルニア』。
音はコンテナ港近くの1軒の民家から漏れ聴こえていた。
音の行方を追うとそこには、
全員がリズムに合わせ肩を揺らし、踊り狂い、
熱気に包まれる一室があった。

ダンボールを叩く乾いた音と皿を打ち鳴らすカンカンという音。
真哉をはじめとする子供たちはエアギターをかき鳴らし、
ソロパートでは我こそがと体をくねらせる。
各々が音に、自分に酔う、ちょっとだけ異様で、でも最高に楽し気な空間。
それを率いているのは真哉の叔父である秋山幸重だった。
子供たちを遊ばせているようで、
実は子供たちの誰よりも激しく、誰よりも楽しんでいる。
その幸重の姿が、真哉たちをより楽しませた。

ある夏の日、幸重がみんなで海水浴に行こうと言った。
幸重と子供たちが1台の車に乗って、海へ向かう。
幸重はその道中、
車に無理やり積み込んだコンポで、爆音で音楽を流す。
流れる音楽は洋楽ばかりで、
もちろん真哉には歌詞の意味なんて分からない。
それでも、窓を全開にし音楽をとどろかせながら車を走らせる幸重の、
どんな瞬間も全力で楽しもうとする姿に、
真哉は心を躍らせずにはいられないのだった。

大きくなり進学という岐路に立たされるたびに、
幸重は幾度も真哉に対し、学校へ行くことの意味を問う。
「みんなが行くから」
「なんとなく行った方がよさそうだから」
「親が行けというから」
そんな理由で学校に行くことに意味があるのか。
より実りのある道を選べ。
「普通」という言葉に惑わされるな。
母の望みと幸重の言葉の間で、真哉は迷いを感じる。

海外で働く幸重が、高校生になった真哉を呼び寄せた。
初めてのサイパン。
初めての体験、恐怖、驚き。
そこで真哉は改めて、
「言葉や文化を飛び越え世界で生きる」ということの
楽しさを知る。

真哉は、
いち早く世界に出てリーダーになる道を選んだ。

その後真哉は、
自らの選んだ道を突き進み、学び、出会った。
そしてその道の先で、ACEMDというチームを作る。

×  ×  ×

幸重はいつも
目の前にあるモノを大切にした。
全力で楽しみ生きる姿で、それを示した。

そして常識にとらわれず、自由を求め生きていた。
「普通って、なんだ?」
人生の岐路に立たされた真哉に対し、
簡単そうで難しいこの問いを投げかけた。

あの日エアバンドでかき鳴らした『ホテルカリフォルニア』を聴くと、
いつも考えてしまう。

今の自分のベースを作った、叔父幸重の存在。

あの日の問いの答えは、本当はまだ出ていないかもしれない。

普通ってなんだろう。

幸重編


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