【エッセイ】名古屋めしの快楽

 村上春樹が名古屋は空前の失敗都市だとエッセイに書いていて読んだことがある。名古屋圏の人間からすると自嘲気味に「そっすね」と言うほかに返答のしようがない。名古屋人ほど自分の生まれ育った土地を慈しみながらも、そう言いきることにある種の照れと矛盾を感じている県民は他にいないのではないだろうかと私は思う。

 なにがどう失敗なのかというと、春樹は遊ぶ場所が点在していることを指摘していたが、私もそう思う。圧倒的に観光の面で失敗しているのだ。しかもアピール力もないときている。産業面では軍を抜いているのに。

 春樹はそのエッセイのなかで「日本は世界の名古屋である」と言いきっている。ガラパゴス化した都市としての名古屋が、世界における日本に重なるというのだ。でも結構美味しいのが悔しい「コーヒーぜんざい」なるものを食していると、そんな考えも雲散霧消していくという。そう。そうやって人は名古屋に取り込まれていくのだ。そういう力が名古屋めしにはあると思う。

 結構美味しいのが悔しいというのが的確な感想だと思う、名古屋めし。「え~、この組み合わせ美味しいの?」と侮っていると心地よい裏切りにあうのだと思う。味噌煮込みうどんなんて本当に美味しいんだからね。香ばしく濃くのある味噌に絡むうどんと、濃い味をよい感じに中和してくれる卵がまったりと絡み合って。手羽先。ひつまぶし。小倉トーストと独自の(他に追随する者もいない)食文化を築き上げてきた名古屋めし。

 私には憧れの名古屋めしがある。その名も「エビフライサンド」。名古屋の老舗喫茶「コンパル」が始めたメニューらしいのだけど未だに食べたことがない。名古屋名物であるエビフライ三本とふわふわ卵焼きとしゃきしゃきキャベツが豪快にサンドされたこの一品。エビフライのさくさくと、卵焼きのふわあま感としゃきしゃきキャベツのさわやかさが相まってそれはそれは幸せなハーモニーを奏でているのよ。(って食べたことないので全部想像です)

 名古屋にお出掛けの際には是非お試しあれ。

 

 

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