空を泳ぐ【短編小説 一】

 あなたにあうまでこんなに世界が色鮮やかなものだと知らなかったの。あなたの姿を見るたびに心臓が飛び上がるようにばくばくいって、細胞の一つ一つが歌うように喜ぶの。喜ぶのだけどこの感情になんて名前をつけたらいいのかよく分からないの。あなたの前にでるとまるで操り人形のように天井から吊るされた人のような気分よ。人を好きになるってとても苦しいことなんだって初めて分かったの。

「純。どしたのぼーっとして」

「えっ」

「えっ、じゃないわよ。次の時間移動教室だよ。早く準備しないと」

「あっ、そうか」

「純。この頃ぼんやりしてばっか。さては恋してるな。誰か教えろ、このこの」

「やめてよ。恵美子。そんなんじゃないってば」

 うりうりと背中を肘でおしてくる恵美子に私は照れ笑いしながら、大慌てで教科書を用意する。移動先は理科室だ。今日は先週習ったリトマス紙を使った実験が予定されている。試験紙に色んなものを浸してその反応をみるという実験。そんな実験みたいに人の心も数値ではかれたらどんなに楽だろうと、私はそっとため息をついた。

 そうなのだ。恵美子の言う通り、私山田純は恋をしている。クラスメートの田中明宏(あきひろ)に。しかもこの一週間という短い期間に突然、彼のことが気になって仕方なくなってしまった。でも恵美子にいったら、「ありえなーい」と笑われてしまうだろうけど。田中くんはクラスの中でも目立たないほうだ。はっきりいえば非常に冴えない男子だ。だけど私は彼のことが好きで好きで仕方ないのだ。胸が苦しくなってしまうほどに。

 私も普段はそこまで目立つ生徒ではない。しかしそれは普段の姿であって、ひとたびプールサイドに立つと私は豹変する。

 思えば泳ぎだけが取り柄だった。勉学の方は幼い頃から中の下どまりの成績しか納められなかったが、ひとたびプールサイドにたつと私は皆の注目を一心に集めることとなった。

山田頑張れ、純かっこいい。この声援を何度耳にしたことか。短距離も苦手ではなかったが、純は圧倒的に400メートルの長距離が好きであった。泳ぐとき。純は自分の世界にはいる。無になる瞬間。すべてが圧倒的だった。スラッと長い手足の恵まれた体格、そのほっそりとした体のどこに秘められているのかとみる人が驚くようなスタミナ、そして当の純本人が泳ぐことが大好きだというアドバンテージ。

 


 この先は全く考えてない。これから考えます。なんだか突然に書きたくなって書いてみました。

 

 




 

 




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