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掌編小説 コンビニ天使

 はぁー、裕也は盛大なため息をついた。というのも入社3年目にして手掛けたプロジェクトが特大の失敗に終わったからである。上司や同僚から期待されて臨んだだけあって、裕也は入念な準備と計画を怠らなかった。それなのにー。裕也はぎりっと歯ぎしりするとこんな日は酒でも飲まないとやってられないとばかりにコンビニに寄るとアサヒスーパードライを3本、乾き物を少々、ポテトチップス、冷凍のたこ焼き、ポテトなんかをかごに詰め込むとレジの店員に差し出した。「会計お願いします」「はい」大学生ぐらいの女の子だろうか。小柄で色白、ぽってりとした唇からもれ聞こえる声も可愛らしく。名札には佐々木とある。裕也は何かもうむしゃくしゃしていて、眼の前の女の子をただただ驚かせてみたくなったのだ。「一目惚れしました。僕と付き合って下さい」気づいたらこんな台詞が口をついて出ていた。「はい」彼女はぽっと頬を赤らめるとこくりと頷いたのだった。まじで。驚いたのは裕也の方である。こんな可愛い子彼氏の1人や2人はいるだろうし、はなから断られるだろうと予想していたのに。周りでレジ待ちをしていたお客さんたちから謎の祝福を受けて、俺伊藤裕也は佐々木梢さんと晴れて正式なお付き合いをすることになったのである。

 こんな瓢箪から駒みたいな突飛な出会いを果たした二人ではあったがその後の交際は驚くほどスムーズに進んだのである。梢は近隣の女子大に通う2年生。国文学を専攻している学生であった。コンビニ勤務は大学がひけてからの5時から9時までの4時間。それを週に5日。親元を離れて下宿しているので家賃代だけは自分で賄っているそうである。立派なことだ。彼女の部屋にもあれから何度か遊びに行ったことがあるが、綺麗に整理整頓された居心地のいい部屋でとても美味しいシチューをご馳走になった。絵に書いたような優しい女の子である。

 腕枕の中でうつらうつらしてる梢に思い切って裕也は告白してみた。あの日君に告白したのは本気とかではなくちょっとイライラしたことがあって年下の女の子をからかってみたくなっただけなのだと。今は本気で君のことが好きなのだがけど、あの時は単なる出来心だったのだと。すると梢は私は裕也さんのこと前から気になってたですと。時折仕事帰りにうちのコンビニ寄られるでしょうと。ある日裕也さんうちの常連客のお祖母さんのお買い物を手伝っていたときがあって。そこから優しい人だなって気になってたんです。こんな冗談みたいな告白をした不埒な男を優しいと言ってくれるのか君は。裕也は梢のことを思い切り抱きしめたのだった。

 あのコンビニには天使がいる。俺の天使。裕也は週末のデートを楽しみに今日も仕事に精を出すのだった。

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