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短編小説 クシナダ

 大学のサークルで出雲に遊びに行くことになった。神戸・三宮から高速バスに揺られること5時間。女の子たちが「お尻が痛くなっちゃう」と言い出したのが2時間後、男子たちが「誰だよ出雲に行こうなんていいだしたやつは」と言い出したのが3時間後、誰も言葉さえも発することがなくなったのが4時間後、皆ヘロヘロになりながら目的地である出雲市にたどり着いた。

 市内を観光する元気もなく私達はホテルで疲れた体を休めることにした。温かいお湯が気持ちいい。ベッドに寝そべっているといい気持ちになりそのまま眠ってしまった。

 次の日は皆で名物出雲そばを食べに行く。色が黒く風味が強くとても美味しいお蕎麦だった。午後からは漫研らしく漫画喫茶に入り浸ったり、美術館に行くものもいた。私は漫画は神戸でも読めるので海に行くことにした。レンタカーを借りて仲間4人で海に繰り出す。日本海と太平洋側とではこんなに海水の透明度が違うのかと驚かされる。

 ビーチサンダルを持ってきておいてよかった。私は思いっきり伸びをする。歩いていると海岸線で釣りをしている人に出くわす。

「こんにちは。何か釣れますか?」
「こんにちは。今の季節だと運が良ければのどぐろだね。煮付けにするとうまいよ」

 おじさんの話し方が独特でほとんど聞き取れなかった私はもう一度話してくださるよう頼んでみる。

「のどぐろだね。煮付けにするとうまいよ。そっかあんたこっちの人じゃないんだね」

「はい。私は神戸から来ました」

 おじさんの喋り方をきいていて気づいたのが、『これはズーズー弁というものだろうか』ということだ。確か松本清張の砂の器にあったなと。事件を混乱に招いたのがこの独特の出雲方言、西のズーズー弁だったなと。たくさん釣れるといいですねと言い私はそこでおじさんと別れた。

 そうしたら初夏の入道雲がもくもくとい出て急な土砂降りとなった。私は仲間たちと早急に市内に引き上げることとなった。

 その夜私はけったいな夢を見た。何かの容疑で私は全国に指名手配が出され警察に追われているのだ。そこに協力者と名乗る男が現れ高飛びに成功し見知らぬ外国で結婚式をあげるという夢を。夢を見ている間中心が散々かき乱され私は一晩でかなりの量の汗をかいていた。

 翌日シャワーを浴びホテルを後にした私は、県立図書館でヤマタノオロチ伝説の資料を読むことにした。ヤマタノオロチ。櫛名田比売。スサノオノミコト。櫛名田比売は水田を意味する女神。このオロチとは古くから氾濫を起こしていた斐伊川を象徴しているのではないかと。姫を助けたスサノオノミコトはこの出雲の地を気に入り宮殿を作ろうと思い付いたスサノオはここで歌を詠むのだ。

 八雲立つ 八雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る
その八重垣を

 これが日本最初の和歌として神話に残されていると。

 帰りに出雲そばをおみやげに買うと私は満足してバスに乗り込んだっだった。






 


 


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