お金の本質を理解することが大事な理由
家庭には必ず家計を管理する人がいるように、会社にも必ず経理部という部署が存在します。
経理部とは会社の売上や経費の支払、投資や借入れなど、お金の受取りや支払いが生じる全ての活動を記録する部署をいいます。
なぜ、会社には経理があるのでしょうか。そしてなぜ、皆さんの家庭にも同じ役割が存在するのでしょうか。
公認会計士として考えたことをお話ししたいと思います。
1. お金は信用を形にしたもの
一般的にお金といえば、100円玉などの貨幣や1万円札の紙幣をイメージする人が多いかもしれないですが、100円玉や1万円札自体に価値があるわけではありません。当たり前ですが、100円玉はただのニッケルと銅であり、1万円札のただの紙でしかないからです。
今から300年前の江戸時代を想像してみてください。大判や小判が流通していた時代に、今の時代で流通する貨幣や紙幣を使えるでしょうか?全く役に立たないことが分かってもらえると思います。
では、お金とは一体何なのでしょうか?
お金は昔は大判や小判でしたし、今は貨幣や紙幣で、キャッシュレスの時代ではただのオンライン上の数値になりつつあります。
お金の形は時代と共に変わっていますが、実のところお金の本質は何も変わっていません。
結論から言うと、お金の本質は信用にあります。
例えば100円玉は100円の価値があるものと交換できます。100円の価値を提供した人は100円玉を受け取ることができますが、この受け取った100円玉で別の100円の価値のあるものと交換できるようになります。
例えば自動販売機のジュースも、100円ショップの製品も、100円に値下げされたセール品も全部この100円玉と交換できるのです。
交換されるたびに100円玉はぐるぐるといろんな人の元へと渡りますが、100円玉の役割は変わることはありません。100円の価値を持っていろんな人の元へと渡っていくのです。
なぜこんなことが可能なのかと言うと、国が100円玉の価値を保証してくれているからです。国が価値を保証してくれるので、みんなが安心して使うことができます。
みんなが安心して使えると、生活がとても便利になります。便利になると新しい製品やサービスが誕生します。すると、ますます僕たちの生活は豊かになります。こうやって経済は発展していくのです。
だから国は貨幣や紙幣に信用を保証する必要があるのです。貨幣や紙幣はそのための道具に過ぎないからです。
僕らがお金と呼んでいるものの本質、それは信用なのです。
信用を形にしたもの、それが普段お金と呼んでいるものなのです。
2. 信用には誠実さが大事
お金の本質が信用だとしたら、僕らが最も気を付けるべきことは何でしょう?みなさんは周りの人から信用してもらうために、心がけていることはないでしょうか?
嘘をつかないこと? 相手を傷つけないこと? 相手のものを盗まないこと?
そう。僕らは信用を守るために、常に誠実であることを心掛けているはずです。それはお金についても同じこと。僕らはお金に対して誠実でなければいけません。なぜなら、仮にあなたがその信用を裏切ってしまったら、あなた自身が信用されなくなってしまうからです。
だから、だれも見ていないからと言って嘘をついてはいけません。100円玉を偽造したり、盗んだり、お金でウソをついてはいけないのです。
「いやいや、バレなければいいんだろう? そんなヘマしないけど?」という人もいるかもしれない。
断言します。あなたの嘘がバレない確率は限りなく低いです。なぜなら、お金の流れを追えば大体のことは分かってしまうからです。
もしあなたが今嘘をついていてバレてないのだとしたら、それはバレているけど見ないふりをされている(つまり既に信用されていないだけ)か、これからバレるだけの話です。
信用を失うのは簡単です。でも信用を取り戻すのは難しい。法律で偽造や盗難が禁止されているのは、お金の信用を守るためだけにあるのでありません。あなた自身を守るためでもあるのです。
お金の本質は信用にあります。
だから、僕らはお金と誠実に向き合わなければなりません。
3. お金と誠実に向き合う方法
突然ですが、国民に課せられている3大義務を覚えていらっしゃるでしょうか?
答えは、教育・勤労・納税です。
納税に関する法律はいろいろ種類がありますが、多くの税法では決算書の作成が義務付けられています。また、会社全般について定めた会社法や、上場企業について定めた金融商品取引法でも決算書の作成が義務付けられています。
なぜ、法律はこのように決算書の作成を義務付けるのでしょうか。
それは、正しく決算書を作成することこそがお金と誠実に向き合っていることを示すことになるからです。
決算書とは、簡単に言えば会社の損益状況や財産状況をまとめた資料のことです。税法でも会社法でもこの決算書の作成が義務付けられているのには理由があります。
税法でも会社法でも、お金のやりとりをする相手方を想定されているからです。
例えば税法が想定している相手は国です。納税が国民の義務である以上、僕らは国に対して税金を納めなければいけません。なぜなら、国が集めた税金によって社会インフラが構築されているからです。
ところで税金はどうやって計算されるかご存じでしょうか? 会社が稼いだ利益に基づいて計算されます。だから、会社は納税するときにいくら利益を稼いだのかが分かる決算書を提出しなければなりません。だから会社は決算書を正しく作らなければいけないのです。
例えば、ある宅配サービス会社が、道路はただで使いたいけど、税金は払いたくないので決算書はテキトーに作ったとしたら、周りの人はどう思うでしょうか?
道路の維持費用はみんなの税金で賄われています。その道路をただで利用しながら、自分たちの利益ばかりを優先する会社を周りの人は信用してくれるでしょうか。
たとえ今バレていなくても、社会はこんな不誠実なことを決して許してくれません。いつか必ず税務署が気付きます。
そんなことにならないように、正しく税金を納めるために、会社はお金の記録を正確に残しておく必要があるのです。
ちなみに、会社法が想定している相手は誰かご存じでしょうか?
それは会社法の相手は一般的に銀行を想定しています。会社法とは債権者(つまり会社にお金を貸している人)を保護する目的で作成された法律なのです。
会社を経営するうえで、銀行からの借り入れを無視することは出来ないからです。もしあなたが経営者で、会社の規模を拡大したいと考えたとき、銀行が一番力になってくれる心強い存在だからです。
ただし、銀行はただでお金を貸してはくれません。銀行にはお金を貸してくれる代わりに金利を支払う必要があります。そして、貸したお金がちゃんと返ってくるかを常に確認するために、決算書を提出しなければなりません。
お金を貸してくれた人に、きちんと使い道を報告するために決算書を作成します。考えれば当たり前のことですが、だからこそ、絶対に決算書で嘘はついてはいけません。
もし嘘の決算書を提出してしまったら銀行からの信用を失います。お金を全額回収されてしまって、結果的に倒産しても誰も文句は言えないのです。
目的は違ってもお金と誠実に向き合う方法は同じです。決算書を正しく作り、正しく報告するのです。
では、そもそもこの決算書を作るのは誰なのか? それが、経理部なのです。
会社にお勤め経験のある方々は経理部にどのような印象をお持ちでしょうか?
細かい? しつこい? ただの事務作業しているだけ? 稼いでいない部署?
では、誰のために、どうしてそのようなことをしているのでしょうか?
それは、会社の信用、僕らの信用を守るためなのです。
経理部はお金と常に誠実に向き合って決算書を作成しています。会社の人が頑張って稼いだお金をきちんと記録して、経費は1円単位まで照合して、決算書を正しく作っています。それは、他でもない僕らの会社のためであり、僕ら自身のためなのです。
会社や僕らの信用を守るために、細かい単位まで気にする必要があるのです。
会社にはなくてはならない大事な仕事なので、必ず経理部があるのです。
そしてこれは個人や家庭でも同じことが言えます。
お金の本質は信用にあります。お金という信用がぐるぐると回ることで社会は成り立ってます。
だから、僕らはお金とは誠実に向き合わなければなりません。決して家族に説明できない出費などあってはならないのです。
皆さん、お金は大事に扱ってください。
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