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門番

門番

赤提灯には
2頭の龍が棲んでいる

その龍達は大昔
門番たちに勝負を挑んだ
けれども阿吽の呼吸の門番たちに
龍達はこてんぱんに大負けした
その代償として
彼等は赤提灯に閉じ込められ
門番の仕事を手伝っているのだった

「お前が俺の足を引っ張ったんだ」
「いやお前がよそ見をしてたんだろう」
龍達は今でも揉めていて
その諍いは小さな雷を生み
ときどき、通行人に落ちている

もしも赤提灯の下を通った時

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よーいどん

よーいどん

みんな一斉にプールから上がってく
僕はまだ泳いでたいからもっと泳ごっと
ぜんぜんだれも戻ってこないなぁ
プールから顔を出してみた
あ!魚のにおい!
そういえばお腹減ってた!
だからみんな帰ってこないんだ
僕も魚たべたい!
急にお腹がグーグー鳴り出した
プールから上がって
バケツを持ったひとのところへ
大急ぎではしってく
僕の分、まだありますかー!!

「う〜ん、今日も上がってこないなあ」
ほとんど

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海の月

海の月

どこまでも広がる青の中で
ぷかぷか ぷかり たゆたう
そのへんや あのへんで
ぼくはひとり みんなひとり
ぼくたちはいつも
たくさんのひとりだった

あの日はあったかくて
青はいつもよりまぶしくて
みんなはすきとおって
半分くらい 青になっていた
たぶん ぼくもそうだった
(きらきら きれいだなあ)
青く光るみんなにみとれて
ぷかぷかしていたときだった

《ーざぶん。》

とつぜん、上から何かがや

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おさらい

おさらい

どんな一日だったっけ
眠る前は おさらいの時間

【朝】
いつもより随分はやく起きた
真っ暗な部屋の中で
紅碧色の窓だけが
浮き上がって見えた
窓を開けて 空を見る
切り取ったトレーシングペーパーみたいな
半透明で白っぽい三日月が貼り付いていた
ああいうときって
朝と夜 どっちなんだろう
朝ごはんは
昨日の残りご飯のおにぎり(ひとつ)
半熟のハムエッグ(ふたご)
マグカップの牛乳(1杯)

【昼】

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山寺

山寺

夕方に仕事を終えて家に帰る電車に乗った時
車窓に写る自分と目が合ってしまった

のっぺらぼうかと思った
こんな顔は知らない
これは 誰だ
私は目が離せなくなった

気づくと窓の外は真っ黒で
車内には私一人きりだった

『まもなく、◯◯駅。終点です。』
『本日の列車はこれが最終です。』
『折り返しはございません。』

がらんとした車内に無機質な車掌の声が響く
ずっと使っている路線だが
終点に辿り着く

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秘密の宝石

秘密の宝石

その日の朝 私は熱を出した
別になんにもしんどくなかったけれど
「これじゃあ今日は学校おやすみね」
お母さんにはそんなふうに言われた

お母さんがそう言うなら仕方ない
今日の給食はビーフシチューだったのにな
がっかりしながら 布団にもぐる
眠たくないのに布団にいるのは退屈だ
丸くなって目を瞑り 部屋の外の音を聞く

ーパタパタ、パタパタ。
みんなの忙しそうな足音
「いってきます」
お姉ちゃんが学校

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ねこのベンチ

ねこのベンチ

その町には 毎日たくさんの人が来た

「猫はどこだ」「猫はどこだ」
町中どこでもそこかしこ
ギラギラ光るカメラを構えて
うろうろ歩く人だらけ

その町は「猫の町」
右を見ても猫 左を見ても猫
お店も 食べ物も みんな猫の様
猫による猫のための町
お喋りする猫もいるらしい

嘘も本当もごちゃまぜな
おとぎのような噂話は
またたくまに広がっていく
かくして 猫の町には
多くの人間が訪れることになる

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カラスとアンテナ

カラスとアンテナ

雨が上がりかけた夕暮れ
ありふれた町並みの中で
頭ひとつ ポン、と高い
何かの工場の看板に建つ
1本のアンテナ

そのたったひとつのてっぺん

2羽のカラスが取り合っている
そのようすは激しく 止まらず
羽ばたく音が聞こえてきそうだった
でも なんの音もしない
鳴き声も聞こえてこなかった
私は 彼らが争う時には
そういう威嚇の声を出すもの と
勝手にそう思っていた

いや 争ってない?

ジャング

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うたうまほう・ゆめとおどる

うたうまほう・ゆめとおどる

冬と春がバトンタッチするころ。
なぎちゃんのお誕生日がやってきます。

【当日にパーティをします!ぜひ来てね!】

みんなの元へ招待状が届きました。
どうやら今年はいつもよりスペシャルみたい?
特別なおめかしをして、おともだちも連れて
さあ、パーティ会場へ!

ピューロランドの森 ずっと奥深く
あちらこちらで光る オーロラ色の水晶
光に誘われ つり橋を渡った先に
ひみつの劇場がありました。

「あ

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