【SS】優先席の微世界先生

私は、大学の事務職だ。
間もなく定年を迎える。

通勤バスの顔ぶれはいつも一緒だ。
優先席には、私と歳の変わらない物理の教授が座っている。
彼の専門は量子力学だ。
詳しことはわからないが、我々が過ごしている世界と、微視的な世界ではルールが異なるらしい。
私は、彼のことを「優先席の微視的世界の先生」と呼んでいる。

実は、私はこの大学の先生全員にこっそりと二つ名をつけている。
「赤い彗星」や「葬送」のような気の利いたものではないが、うまく名付けられたときの充足感は何事にも代え難かった。

今日は学生の相談に乗る約束になっていた。
私は勤務が長いだけあって、この大学に限っては全ての先生の名前と専門分野を把握している。
だから学生達が研究室を選ぶ際に助言を求められることがあるのだ。
もっとも、他の大学のことはわからない。

場所は、学食の教職員席。
学生からは優先席と呼ばれている。

「優先席の微世界先生、お願いします。」

どうやらそれが私の二つ名らしい。

お読み頂いありがとうございます。記事が役に立てばうれしいです。このエリアまで読んで頂いた方が、これまでもこれからも幸せでありますように。