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【SS】てるてる坊主のラブレター

降水確率80%にも関わらず、雨はまだ降っていない。

「降らなくて残念ね」
動物園に似つかわしくない都会的なワンピースに身を包み、ほんのりと薄いピンクのヒールを履いた彼女が言った。

彼女は口が悪い。それでもどこか心を引くものがあり、つい先日デートに誘ったのだ。彼女は、もし雨が降らなければと了承してくれた。

「歩きにくくて嫌ね。中止だと思っていたのに…」

時折彼女は文句を言う。僕は彼女の機嫌を取らなくてはと喫茶店に入ることにした。

「紅茶もケーキも普通ですわね」

「今日は一日無駄にしたかしら」

彼女は楽しんでくれているようには見えなかった。

「じゃあ、そろそろ出ようか」
僕は、伝票を持ってレジに向かった。

「あなたごときの施しは受けませんわ」

彼女が鞄から財布を取り出したとき、丁寧に作られたてるてる坊主がはらりと落ちた。

「あ、いや、これは…」

彼女は顔を真っ赤にして慌てている。

彼女が隠そうとしたそれは、僕にとって最高のラブレターになった。

お読み頂いありがとうございます。記事が役に立てばうれしいです。このエリアまで読んで頂いた方が、これまでもこれからも幸せでありますように。