【SS】肋骨貸す魔法

日本にたどり着いた宣教師の肋骨は、完全に折れていた。
長い船旅で栄養状態が悪かったためだろう。
宣教師は殉教を覚悟した。

村人は、その宣教師を、あるお寺に運び込んだ。
この寺の高齢の住職には不思議な噂があった。
弟子が修行中に病に侵されると、その病を肩代わりするというのだ。

「その体では、修行は難しいでしょう。では、私の肋骨を貸し出す代わりにあなたの折れた肋骨を預かります。」

住職がそういうと、宣教師の肋骨は完全に治っていた。
その代わりに住職の顔に苦悶の表情が浮かぶ。

宣教師は、礼を言うと急いで自国の教会へと帰っていった。
聖書に記載のあるような本物の奇跡を体験してしまったのだ。
宣教師は、この奇跡を『肋骨貸す魔法』として各地に触れ回ったが、日本に戻ることはなかった。

それからしばらくすると、住職は老衰でなくなった。
遺体は荼毘にふされたが、高齢であったためか、ほとんどの骨は形を残さなかった。
かつて宣教師から預かった肋骨を除いては。



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