【SS】文学トリマー

俺は文学トリマーだ。
数多の本を読み、美しい文章に出会えば写経も辞さなかった俺は、トリマーが動物の毛や爪を整えるように、人の書いた文章を綺麗に整えられる。
今日の依頼人は常連の文香さんだ。

「前から聞きたかったんですが、自分では書かないのですか?」
痛いところを突いてくる。さすがは常連さんだ。
「書けないんです。書きたいという発意、自分の言葉で書きたい題材が見つからないんです」
「せっかく、きれいな文章が書けるのに」
「文香さんは、どこから着想を得るんですか?」
「過去の経験、記憶の奥底、夢の世界、そして、今感じていること」
「なるほど、参考になります」
「トリマーさんの最初の作品、私に読ませてくださいね」
「は、はい」

書きたい理由は文香さんからもらった。
悩みに悩んだ俺が書いた最初の作品のタイトルは「文学トリマー」
大好きな仕事への想いを丁寧に文字に乗せて紡いでいく。

文学トリマーを卒業した俺の次の目標は、文学フリマなのかもしれない。


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