【ss】天ぷら不眠

不眠は国家的な課題である。
2030年厚労省の白書に不眠の文字が並んだ。

今度のビッグウェーブは不眠か。
大学病院の新人医師はポツリと独り言を言った。

「あの、最近よく眠れなくて」
「どれくらい眠れないんですか?」
「いつもより一時間くらい短いです」
「わかりました。薬出しときます」

患者の症状を書いたカルテにはこう記載した。
「深夜まで眠れない」

新人医師のカルテを見た医長はカルテを見て改ざんした。
「朝まで眠れない」

そして、院長も改ざんした。
「全く眠れない」

そして日本中で不眠患者が爆増した。
あらゆる病院、あらゆる医師が同じ動きをしたからだ。

2031年の厚労省を白書には引き続き不眠の文字が踊っている。

厚労省の報告を不審に思った大臣は独自に調査を始めた。
部下を使って聞き取り調査を行ったのだ。
そして国民の不眠には実体がないことを明らかにした。
誰もが事実に衣をつけて上にあげていたのだ。

後の世の人はこの事件をこう呼んだ。

天ぷら不眠、と。

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