【SS】新説なピン札

居酒屋から出た俺は、相方に向けて手のひらを差し出した。

「この手は?」

「割り勘でしょ。」

相方はゴソゴソと財布をあさり、一枚のピン札を出してきた。いつもはくしゃくしゃのお札しか持っていない相方がピン札とは。

「これは何?」

「この前、小田急の渋沢駅で、葱坊主みたいな人形連れたサンバイザーの少年にもらったやつ。」

「渋沢駅でキテレツ君に会ったの。それ、栄一の字違うから。」

「だからこれ一万円。」

「お札の顔、お前やんか。」

「これ、一万円て言い張ろうと思って。世界に一枚しかないお札。これが一万円て新説を打ち立てようと思って。」

俺はキョロキョロと辺りを見回し、大きな声で言った。

「お巡りさん、ここに悪い人いますよ。紙幣の偽造ですよ。」

冗談のつもりが警察官に囲まれた。しかし、酔っ払いの戯言と聞き流してくれたようだ。相方はボソッと呟いた。

「カツ丼食い損ねた。」

「おう、そうか。それじゃ、カツ丼食いに行こう。支払いはその新説なピン札で。」


お読み頂いありがとうございます。記事が役に立てばうれしいです。このエリアまで読んで頂いた方が、これまでもこれからも幸せでありますように。