【SS】冷凍記憶

2000年代の前半には呟きや短い動画の共有が流行っていたらしいが、2100年代に入ると冷凍記憶がブームになった。

メモリーダンプと呼ばれるセンサーが付いた特殊な帽子を被ると、視覚野や聴覚野から側頭葉に流れる信号が事細かに記録される。

そして、ブレインバーチャルリアリティと呼ばれる細やかな磁場を創り出す特殊な装置が付いた帽子を被ってスイッチを入れると、先ほど記録された信号がそっくりそのまま脳内で再現されるのだ。

人々は、こぞって自らの経験を記録した。そしてウェブ上の記憶投稿サイト『冷凍記憶』に投稿したのだ。100年たっても承認欲求を満たしたい人間の行動原理は変わらなかったようだ。

儲けたのはプラットフォーマーの冷凍記憶だけだった。
特殊な記憶は高額で取引され、その金額の半分は冷凍記憶に支払う手数料だったのだ。
その結果、人々は特殊な疑似体験を簡単にできるようになり、経験をしなくなっていった。人間は種族として退化していった。


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