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『ノーカントリー』最上のスリラーは観る者に死の恐怖を植え付ける

 妻と出会ったのは、15年前。この映画の公開時で、かなり頭がおかしかった俺は、連続殺人の映画にあどけない女学生を誘った。幕が上がるまで、話に夢中になり、駆け込みで入った劇場の2人を凍りつけるには十分な、ハビエル・バルデムの怪演だった。そのときの詳しい感情の動きは、もう覚えていないが、妻は夢中で、終わってからも話は弾み、最高のデートムービーになったと、私はご満悦だった。この映画の真価には気づいていなかったのだが。それも若さだった。
 バルデムは見つめられるだけで息が止まりそうな存在感だが、彼の持つ空気銃は、映画の装置として、バルデムと同等の強烈な恐怖を観る者に植え付ける。
 コーエン兄弟にとってはあまりにも暴力的な作品で、彼らの中では異質な映画だろうが、そのスリルと恐怖は映画内の娯楽としては一級で、最高傑作の一つだ。
 何とか逃げ切ってくれと祈る筆者の前に、バルデムが空気銃ですっと殺しに現れる。ブローリンやジョーンズ、マクドナルドのキャラクタライズも素晴らしく、感情移入するのは容易だ。しかし、淡々と残酷にカメラは最後までとらえていく。終幕のとき、これが映画だと私は思うのだ。

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