なぜFRP&カーボンなのか
高くなったかも。
久々に、某店頭でマレットをいろいろと拝見させてもらった。全体的に、ティンパニマレットの価格が上がったかもしれない。竹柄のマレットに関しても、2000年代はじめくらいまでなら20,000円以上するティンパニマレットがあれば「うおっ」てなった。いま、20,000円以上する竹柄マレットは珍しくない。30,000円するのだってある。価格高騰の背景は、おそらく竹柄など材料の価格が上がっていることが大きい。
ちなみに、ぼくも含めた多くの職人は、中国産の竹をじぶんで輸入し、加工している。火入れや複数回に渡る矯正、切断や表面の削り、ペアリングといった加工のプロセスは途方もない。ぼくの場合は火入れ用のコンロにプロパンガスのボンベを直につないでいるが、そういういろんな道具も必要になる。置き場も必要だし、切削などの作業中は粉塵なども飛ぶ。それ相応のスペースも必要。コルベルクというドイツの会社から、そういう処置を実施済みの竹柄を、ペアで仕入れることもできる。20年前は一組5,000円以下で買えた。いまは、直輸入でも税金や送料を合わせると10,000円以上。「その価格ってもうバチ買えるんじゃ、、、」って話だけれど、作り手目線的には、ボッタクリとも言い切れない。
貧乏学生でも手に取れる良いマレットを作りたい
昔話。高校卒業が近づき、親に「大学くらい行っといたら」と言われた。実際に入学すると学費なんて一銭も払ってくれず、むしろ家に金を入れろと。代わりに、奨学金(という名の借金)の手続きだけは全力で協力してくれた。いまなお、その借金の返済は終わっていない。華麗にハメられた。
決して露悪趣味ではないが事実、ぼくは奨学金で大学に通い、授業(文学部)、部活(管弦楽部)、アルバイト(ビル掃除)の三つのローテーションで四年間を過ごす貧乏学生だった。1年生のころは四苦八苦したものの、2年生、3年生くらいのころから三つのローテーションが相互に息抜きのような形でいいかんじに回ってきた。高校までは音楽以外のことに興味を示さなかった人生だったけれども、大学での学び、特に哲学や言語学は目から鱗だった。清掃バイトでも「モップ握ってできるタコって、剣術でできるタコと同じなんだぜ」とかよくわからないウンチクを教えてくれる先輩もいた。楽しかった。世の中の色々なことに心を開いたのはこのころだった。
横道にそれたが、貧乏学生だったころ、手に取りやすい価格で実質的に価値の高いティンパニマレットがあったらどんなにうれしかっただろうと思う。ぼくが手掛ける廉価版マレットは、半分くらいは若いむかしのぼくに対しての提案だ。
FRP、カーボンでオルタナティブ・シャフトを作る
たまに「のれん用の竹でも買って切って、アタマにコルクくっつければよいんじゃないの」などと言われる。まちがっちゃないと思う。実際「あぁこれは使えるだろうな」という棒に出くわすこともある。ただ、それでものれん棒などをティンパニ用として納得のいくシャフトにするには結局たくさんのプロセスを経る必要がある。もちろん生えてる竹を伐採してバチにするよりはマシだが、一方で、劇的に価格が下がるというわけでもない。
品質の良い廉価版を実現するために、いろいろ試した結果採用したのがFRP柄とカーボン柄だった。まず竹や木などの自然物よりも重量・太さをコントロールできる範囲が広い。つまり、細くても重いものから、太くても軽くて丈夫なものまで作れる。正円を描いているし、末端から先端に至るまで、まっすぐだ。なにより、見た目、形、重量などのペアリングしていくという作業を大幅に短縮できる。そんなFRP柄とカーボン柄に様々な工夫を凝らすことで、まさにオルタナティブなシャフト(主流に対する<周縁>、もうひとつの価値)が完成した。
・重量やウェイトバランスは竹を意識。
・先に向かってテーパリングをかけて、力が伝わりやすくした。
・竹の質感を意識した表面処理を施した。
「素材に対する偏見を脇に置き、一度試してみるとよい」
数々の工夫が実ったか、このFRPシャフトやカーボンシャフトに興味を持ってくれるプレイヤーもちらほらと現れ始めた。その一人が、ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団ティンパニ奏者のオリバー・ミルス氏。彼らのように演奏旅行で世界中を飛び回るオーケストラでも、FRPやカーボンなら乾燥や気圧などでクラックが入ってしまうような心配はない。大変嬉しいコメントをいただいた。
実際に演奏に使用したリンクも送ってくれたので、ここに貼り付け、この記事を締めることにする。(Noteでは埋め込み表示されないので、クリックしてYoutubeに飛んでから視聴ください。)
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