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これから社会にでる後輩の皆さんへ コロナが加速する「世界の5つの変化」② 米中対立の激化  柔軟な戦略的思考が必要となる

2. 米中対立の激化  柔軟な戦略的思考が必要となる
アメリカの著名な政治学者グレアム・アリソンは古代ギリシャのアテネとスパルタの戦いを引き合いに出しながら、歴史上、覇権国家とそれに挑む新興国家との間では戦争の可能性が一気に高まるということをギリシャの歴史家の名を冠した「トゥキディデスの罠」という言葉で表現しています。15世紀以降の国家間の覇権争いでは多くのケースで戦争を招いたものの、20世紀前半イギリスからアメリカへの覇権のシフトは例外的に平和裏に終わった。しかし、現在の米中対立は戦争勃発のリスクが極めて高いということを彼は著書『米中戦争前夜』の中で述べています。その主張はワシントンでも影響力を保持しており、米中は政治、経済、外交、軍事、宇宙、サイバー空間の分野で対立する本格的な新冷戦時代に突入したという見方が広がっています。今後、世界中のどの国においても米中新冷戦への対応が喫緊の課題になりそうです。  

最初の冷戦が終結してからの歴史を少し振り返ってみましょう。
1940年代末から始まった東西冷戦は1989年にベルリンの壁が崩壊し、数年後ソ連邦が解体して西側諸国の勝利で終わりました。当時、ソ連はゴルバチョフ、アメリカはレーガン、イギリスはサッチャーが政治のリーダーだった時代です。
アメリカの政治学者フランシス・フクヤマは冷戦終結直後に、世界がアメリカを中心とした自由と民主主義を謳歌するより良い場所になるだろうと予言し、彼の著書『歴史の終わり』は大変な話題になりました。確かに民主主義は東欧など一部地域で広がったものの、その後の展開は地域紛争やテロ、ナショナリズムや宗教対立が続き、世界は必ずしも彼が楽観したような平和な場所とはなりませんでした。

冷戦終結による平和の配当という面では自由市場経済が普及し経済のグローバリズムが広がったことの方が大きかったかもしれません。社会主義対資本主義というイデオロギーの対立がなくなり世界の貿易や投資が活発になり、中国やインドなどの新興国が主要な経済プレーヤーとして台頭するまでになりました。
他方、この間、先進国ではグローバリズムは安価な消費財をもたらし消費者に恩恵を与えましたが、新興国と競合する在来産業が衰え、失業者の増大や地域の衰退を生みました。その結果、欧米各国ではグローバリズムで敗者となった中間層を支持基盤とする政治のポピュリズムが急速に広がりました。極端な主張で大衆受けする指導者が台頭し、社会の一部には移民の排斥や人種差別的な動きが広がり、社会の分断が加速することになりました。

そうした背景の中、アメリカでは2017年にトランプ政権が誕生します。
アメリカは国際協調よりも自国中心主義、移民よりも国内の有権者の雇用機会を優先し、貿易では保護主義の傾向を一層強めました。そして、軍事的にも、アメリカは世界の警察官であることをやめ、中東でのプレゼンスを後退させ、ヨーロッパやアジアの同盟国にはより一層の防衛負担を求めるようになりました。
アメリカの世界における地政学的地位の低下はオバマ政権時代から始まったといわれており、トランプ政権はそれを加速させました。こうした状況を指し政治アナリストのイアン・ブレマーは従来から世界がリーダー不在の「Gゼロ」の時代に突入したと主張しています。

こうした世界におけるアメリカの地位が相対的に低下する中、影響力を高めようとしているのが現在の中国です。中国の歩みも振り返ってみましょう。

1978年から改革開放路線に転換した中国は、冷戦終結後、経済のグローバリズムが広がる中で一番の恩恵を受けました。消費財から半導体製品まで生産する中国は世界の工場とまでいわれ世界のサプライチェーンに組み込まれていきました。そして、2008年のリーマンショックの後いち早く立ち直り、世界経済の回復をけん引した中国は2010年に日本を抜き世界第2位の経済大国にまで成長します。中国は国全体で見ればまだ新興国のレベルにあるものの、研究開発やデジタル分野ではすでに世界のトップレベルにあるといわれており、2030年代にはアメリカを抜き世界第1位の経済大国になることが予測されています。

そして、政治面においては2012年に現在の習近平政権が誕生します。
習近平がそれまでの指導者と異なるのは中国を再び世界の超大国にするという明確な目標を掲げたことでした。2025年には製造技術で先進国としての仲間入りを果たし、建国100年の2049年に中国は世界のあらゆる分野で中心的な地位を占めるという目標を明らかにしています。

19世紀前半のアヘン戦争以来、中国は近代化に後れを取り、列強から屈辱を味わされてきました。1949年に毛沢東が共産党政権を打ち立て国を統一したものの、改革開放路線が始まるまで、国は経済的苦境から抜け出せませんでした、しかし、すでに述べたように、中国は世界第2位の規模を誇る巨大な経済力を背景に、ようやく積年の恨みを晴らし、中国を再び偉大な国にするタイミングが訪れたと考えているようです。

言うまでもなく、数千年の歴史の舞台において、その人口と経済規模から中国は常に世界の中心にいました。数百年の屈辱の時期を経て、中国は世界史の舞台に主役として再び躍り出る、習近平はそうした中華民族の夢を実現しようとしているわけです。

歴史上、覇権国家の移行期には通貨や貿易、投資の制度やルールにおいて大変動が起こることが予想されます。デジタル通貨の導入をめぐっては中国が先に仕掛け、欧米がこれに追随しています。貿易や投資の分野ではすでに保護主義や外国企業を規制する動きがでています。米中は新しい経済競争のゲームのルールで互いに譲らない状況に来ています。

ビジネスの世界でも企業は米中いずれの企業との取引を優先するのかという踏み絵を踏まされる事態に遭遇します。すでにそうした動きは中国の通信機器大手ファーウェイとの取引を巡って世界的に始まっています。

今後、米中新冷戦は経済的競争のみならず、外交や軍事的関係でも激化することが予想され、今回のコロナを機に、その傾向はさらに顕著になっています。

これから世界は益々激しさを増す米中の覇権争いが戦争の罠に陥るリスクと向き合わなければなりません。アメリカや中国を相手に、自分たちはいかに立ちまわるのか、今から若い世代には新しい政治感覚や柔軟な戦略的思考を身につけていただきたいと思います。

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