2 メイド・センテンス
タンスに潜り込み、隙間からのぞく。
入ってきたのは軽巡洋艦ベルファスト。白いフリルのエプロンとヘッドドレスで、一礼すると長い銀髪が紺のお仕着せを流れ落ちる。
「少々、お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
形式こそ疑問文だが、字づらとちがって是非は無し。このメイド長は実質的にロイヤル寮を隅々まで仕切っているのだ。
「エンタープライズ様から、信書が届いておりますが」
「えっ」
「上の判断でお見せできません。わけはお察しのことと存じます」
「ああ……」
相棒はこちらに背を向け起立の姿勢、語調は従容としていた。
「彼女は空母だ」
次いで、二人の台詞がぴたりと重なる。
「『守備範囲は駆逐艦の妹たちだけ』だから」
ベルファストは満足げな微笑みを浮かべた。
「わたくしどもメイド一同、よく気を配っております。いつなんどきも、アーク・ロイヤル様とご友人の名誉をお守りするよう。ご主人様のご意向でもあります」
エプロンの両端をつまみ、片膝を引いて深々と頭を垂れる。
「なにとぞ、ご寛容くださいませ」
そしてまた、会釈して出ていった。
「……」
錠の音に隠れる、ため息の虚ろさ。闇の中、こちらまで息を止めていた。
***
部屋の明かりに目がなれたら、陰りはもう消えていた。
「まさか、交友関係を制限されているとは」
「これも役目だ。口出し無用……」
「そうはいかないよ」
窓には、艦載機で渡したロープが、カーテンに隠しておいてある。
全開してもこの子は通れないな。でも……腕をいっぱいに開けば、框の両端に届いた。いける。
「え、ちょっ、戦友殿?」
ななめに突き上げ、枠から外した。もう片方も。
外は快晴。いい風だ。
振り返ると、気のぬけた表情で手を額にあてているんだから。世話がやけるよ。
「……なんで、こんなこと……」
「わかってるくせに。おいで!」
ここで言えないなら、道中で、聴かせてもらおう。
つづく
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