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乾かす話

最近は雨も多く、梅雨の気配を感じますね。というか沖縄ではとっくに梅雨入りしているそうで、洗濯物が乾きにくい季節がやってきます。

生活の中で、乾かすという行いは意外なほどに大きなウエイトを占めています。洗濯、皿洗い、お風呂といったわかりやすいものから、水回りにおいてカビの発生を防ぐといった見えにくいものまで。
お手洗いの後に手を乾かすとか、水を飲んだ後に洗ったコップを乾かすとか、そういった細々とした乾かしの行いまでカウントすると、生活とは乾かすことと乾かすこととの間で営まれていると言っても過言ではないでしょう。

しかしその重要性に比して、乾かすことはあんまり顧みられていないのではないか?ということを最近とみに思います。

私は乾かすことにそれなりに真摯で、例えば冬には台所にみかんの皮処刑場を設置して剥いた後のみかんの皮を放置しています。
みかんの皮というやつはかなりの水分を含んでいて、そのままゴミ箱にシュートすると数週間後には絶望的な腐海を形成してしまうのですが、乾かすことによって良い匂いのするパリパリした物体になります。そのパリパリを砕きながらゴミ箱に放り込むと、手がみかんの良い匂いになってほんの少し世界が良いものに思えてくるというわけです。

冬以外でも、とりあえず生ゴミは処刑場に置いて一次乾燥を行います。こうすることで、三角コーナーを数週間放置していても中に腐臭が充満することを防ぐことが出来ます。冒頭の写真は現在の処刑場の様子です。悍ましい管虫みたいなやつはりんごの芯です。三角コーナーへ移すのをちょっと面倒がりすぎました。

私は臭いに敏感であるため家の中で臭いものが発生することに堪えられないのですが、その一方で稀なる面倒くさがりでもあるためにゴミ捨ての頻度は可能な限り低くしたいと考えています。具体的にいうと、燃えるゴミは多くても2ヶ月に一回くらいしか捨てたくありません。そのため、いかに臭いのしない状態を維持し続けられるかが重要になってきます。
ゴミから発生する臭いとは、基本的には何らかの物質の腐敗によるものです。腐敗が進みやすい条件の一つに、腐敗を引き起こす微生物が活動しやすい環境であることが上げられます。適度な水分は腐敗しやすい条件の最たるものです。したがって、ゴミから水分を取り除いておくことが重要です。

気をつけるべきはゴミだけではありません。
生乾きの洗濯物からは特有の微妙なにおいがします。風呂場や洗面台なども、水浸しのままではカビが生え、独特のにおいがするようになります。
けだし、においを避けるためには乾かした方が良いのです。

そういうわけで、乾かすことのお話をします。
ちなみに生ゴミの話は「乾かしてから捨てろ」に尽きるのでここで終わりです。


乾かすとは何か

まず、乾かすとはなんでしょうか。

濡れていたものが、濡れていない状態になることです。

もうちょっと具体的に、わかりやすいのでコップで話しましょう。乾くとは、濡れたコップの表面に付着していた水滴が、蒸発して空気の中に紛れ込むことです。コップ側に目を向ければ、コップに水滴が付着していない状態になることです。
あるいは、剥いた後のりんごの皮のようにしっとりしていた状態のものが、パリパリの状態になることです。

このように、乾かすという行いは乾かす対象に付着している/内包されている水分が蒸発して対象から離れるように仕向けることを言います。

乾かすために重要なこと

それでは、乾かすためには何が重要なのでしょうか。

遙か昔ボーイスカウトというものをやっていた頃、様々なことを学び、そして今はほとんど忘れてしまいました。しかし未だに覚えていることがあります。それは、たとえ雨が降っている日のテントの中であっても、洗濯物を干していれば乾かすことができるということです。ボーイスカウトのハンドブックか何かに載っていました。
そして、そのページに書いてあった洗濯物が乾くために必要な三要素とは、温度と湿度、そして風。だったと思います。個人的には、ここに表面積も加えたいと思います。

ではなぜ温度と湿度と風、そして表面積が重要なのか?
これはひとえに、水分を蒸発させる必要があるからです。

お察しのとおり、中学校の理科くらいの話をします。
なお、正確性よりもわかりやすさを重視しています。

まず、温度について。
水が蒸発すると、空気中に溶け込みます。しかしもちろん、いくらでもという訳にはいきません。空気が許容できる水蒸気の量にも限界があります。この空気中に溶け込ませられる限界の水蒸気の量を、飽和水蒸気量といいます。
この飽和水蒸気量は、空気の温度に比例します。温ければ温いほど、たくさんの水蒸気を蒸発させられるということです。
ものを乾かす際は、付着している水分をできるだけ早く、たくさん蒸発させたいですね。
温度が高ければ高いほど、その場で水分が蒸発できる許容量が増え、乾かしやすいということになります。

さて、水が蒸発するとその場の湿度が上がります。

湿度にはいろいろな計算方法があるのですが、最も一般的なのは相対湿度と呼ばれるものです。簡単に言えば、現在の温度においてあとどれくらい水分を蒸発させることができるか、その割合をいいます。
お察しのとおり、空気中に飽和水蒸気量が溶け込んでいるときは、これ以上水分を蒸発させられないので湿度が100%になります。湿度が100%だからといって水浸しであるというわけではなくて、あくまでも現在の温度の中でこれ以上水分が蒸発できないというわけです。
湿度が50%のときは、その場の空気が許容できる量の半分の水蒸気しかないということになります。

次に、風の話をします。なぜ風が重要なのか。

風とは、空気が流れることです。ものが乾くためには、空気が流れることが重要なのです。
ものが乾くとき、空気中に水蒸気が溶け込みます。このとき、水蒸気は空気中に一気に広がるわけではなくて、まずは乾いたものの近くを漂っています。

つまり、乾かしているものの近くは、他の場所よりも湿度が高くなるのです。洗濯物のごく近くでは、湿度が100%になっていることすらあるでしょう。湿度が100%ということは、その場に洗濯物をおいていてもこれ以上は乾かないということです。水分が蒸発する余地がありませんからね。
空気というものはなにもしなくとも自然に少しずつ移動して行くものではありますが、もちろん風を送ったほうが早く循環します。

つまり、洗濯物のごく近場にある湿度100%の空気を早いところ他所へと動かして、それよりも湿度が低い空気を送り込むことが早く乾かすためには重要になるわけです。洗濯物を早く乾かしたい時は、扇風機で風を送りましょう。

最後に、表面積の話をします。ここでいう表面積とは、濡れているもの、より正確に言えば蒸発させたい水の表面積です。

常温で水が蒸発するときは、表面から蒸発していきます。決して、コップの中心部にある水がいきなり蒸発するわけではありません(沸騰させるときは中心の水がいきなり気化することもあります。)。
表面から蒸発するということは、表面積が広ければ広いほど、蒸発するための出口が広いということです。出口が広ければ、蒸発する量も多くなります。

お猪口一杯分の水を蒸発させようと思った時、お猪口に入ったままでは蒸発しきるまでにどれくらいかかるのか想像もつきません。しかし、同じ量の水をテーブル上に、あるいはカーペットの上にこぼしたとしたら、せいぜい数時間もすれば乾いていることでしょう。これは、表面積が数倍にも数十倍にもなったために、蒸発する速度も非常に上昇したということです。

湿度と風と表面積

ということで、ものを乾かすためには、温度、湿度、風、それから表面積が重要だということがわかりました。

ここで覚えていてほしいのは、温度や湿度はエアコンなど電気代の高い製品でしかいじることはできまそんが、それに比して扇風機は安いということです。ものを乾かしたければ、風を送りましょう。

具体的な乾かしシチュエーション

それでは、これから具体的な乾かしシチュエーションについて個別に見ていこう......と思ったのですが、皿洗いと風呂場について書いたらもう後は大体わかると思うので皿洗いと風呂場についてのみ書きます。

皿洗い

人はおおよそ毎日皿を洗うと思います。
食器洗い乾燥機導入者、ラップon皿者及び使い捨て紙皿者は除きます。

洗った後は洗いかごに放置して乾かすことになりますが、次の皿洗いまでに乾かしておきたいものです。濡れた新規被洗浄皿を置いてしまうとせっかく乾かしていたものがまた濡れてしまいますからね。しかし、濡れた皿を全部拭いて早く乾かすなどということは面倒でやっていられません。そのため、洗いかごに放置した状態でいかに早く乾くようにさせられるかが重要です。このとき、水滴を水滴のまま振り払っておくことと、蒸発しやすい状況を作っておくことがポイントになります。

では、洗った後にすべきこととはなんでしょうか。

あなたは今皿を洗っています。皿洗いというのは一連の流れなので、洗剤の泡に覆われた皿をすすいでは洗いかごに置く動作を繰り返していることでしょう。このときのひと手間で、どれだけ早く乾くかが決まります。

洗いかごに置くときは、たいてい通常使用時とは天地を逆にした上で、斜めに立てかけているかと思います。ここで対応が必要なのは、皿の底にくぼみがあって水がたまってしまうものです。お茶碗とか汁椀はたいていこの形状をしていることでしょう。こうしてたまった水が鬼門です。

表面積の話を思い出してほしいのですが、小さいくぼみに溜まっている水は乾きにくいのです。蒸発できる面積が狭い分、全てが蒸発するまでに時間がかかります。炊飯器の内蓋とか最悪ですね。
皿の他の部分は乾いていると思って、洗いかごの皿を手に取ったところ、このくぼみにたまった水が辺りにまき散らされて全てが終わった経験を持つ人は多いのではないでしょうか。
こうした悲劇を防ぐためには、くぼみにたまった水は拭き取るものとして諦めてしまうか、あるいは最初から水をためないように立ち回るかです。

水をためないようにするためには、あらかじめ水滴を落としておくことが一番です。そもそもこうしたくぼみに水がたまるのは、皿の表面にまんべんなく薄くついていた水滴が、重力に負けて滑り落ち、一カ所に集まるからです。したがって、水滴の量自体を減らしてしまえばくぼみには大した量の水はたまらないということになります。

水滴を落とすには、皿を掴んで振ることが効果的です。手首のスナップを利かせて、角速度を大きくすることを意識して振りましょう。このひと手間が、悲劇を防ぐことに役立ちます。

ただ、お皿を放り投げないように注意してください。水がたまるくぼみがあるということは、基本的には指をひっかける場所もあるということなので、そうそう起きる事態ではないはずですが。

さて、洗い終えた後の皿の置き方にも、工夫の余地はあります。というより、避けた方がよい置き方があります。

まず、液体のまま落とせる水は落とした方がよいということです。
蒸発する速度よりも、水が流れる速度の方が断然早いからです。
お皿を普段使う向きで置いてしまうと、底に水が溜まってしまって流れていきません。
このことを避けるため、たいていの人は無意識のうちに皿を斜めに立てかけているものと思います。
普段使いの向きで洗いかごに置くのは避けましょう。

そして、水が蒸発することを考えると、皿を整然と並べすぎてしまうのも避けた方が良いです。

例えば、小さいボウルを完全に覆うような形で大きいボウルを置いてしまうと、中に入ってしまった小さいボウルは乾きにくくなります。
小さいボウルの表面と大きいボウルの表面から蒸発した水分が競合し、大小のボウル間の湿度が一気に上がります。
また、整然と並んでいるとその間の空気が循環しにくくなるため、湿度が高い状態が保たれてしまい、より一層乾きにくくなってしまいます。

つまり、蒸発させるためにはできるだけアクロバティックに置いた方がよいということです。
大きいボウルと小さいボウルがある場合は、先に大きいボウルを置いた後小さいボウルを置く方が良いです。また、例えばキムチの容器のような底の深い容器と蓋を洗った場合は、蓋を容器の底面にぴったりくっつけないようにすることも肝心です。

図解すると、AよりもBの方が良いということですね。ただ、見てのとおり洗いかごがそれなりに大きくないと取りずらい選択肢ではあります。洗いかごの上部に、突っ張り棒などで乾かすもの二次置き場(ある程度乾いたものを放置しておく場)を作っておくのも手です。

皿洗い

風呂場

風呂場は、全体が濡れるものです。発生する水の量もほかとは比べ物になりません。
風呂場が家の外とつながる位置で窓があるタイプであれば乾燥させやすいものですが、マンションなどだと家の中心部に置かれることも多く、乾燥は換気扇頼りということもままあります。
そのため、家の中でも最も湿りやすく、カビの発生しやすい場所です。
換気扇は常時つけておきたいところです。

風呂場でできることはそう多くはありません。
とりあえず、風呂場に置いておくものは減らした方がいいでしょう。
また、使用後の床面からできる限り水気を取っておくのも効果的です。
そのためにタオルを一枚使って、などとするのはかえって非効率です。
ここは人体を利用しようではありませんか。

人間の足は平らなようでいて、実はお椀をほんの少し斜めに伏せたような形をしています。そして、外側の方が床に接する形をしています。
つまり、天然のゴムベラのようなものです(今調べたところによると、スクイージーとか水切りワイパーとかいう名前で売られているもの)。
風呂上がりに床に溜まった水滴をちょっと切っておくだけで、風呂場の乾燥具合は全く異なるものになります。
そこで、足の出番ということです。

前掲の水切りワイパーを買って水を切ることができるのであればそれに越したことはないかと思いますが、正直そこまでやっていられません。まず買いに行くのがだるい。でも何を用意することもなく風呂上りに足をちょちょいと動かすだけであれば、まあまだなんとかなるのではないでしょうか。

風呂場の床は足で水を切るとよい

おわりに

ということで、乾かす話でした。
思い付いたときは2分くらいで読める簡素な文章だったはずなのですが、思っていた10倍くらいの分量になっていました。なんででしょうね。生活というのは言語化されていないだけで非常に奥の深いものであるということかもしれません。

洗い物をしまおうとするとき、洗濯物を畳もうとするとき、乾いていないがために出鼻をくじかれるのは陰鬱なものです。
ぜひこの記事を参考にして、良い乾かしライフを送ってくださいね。

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