目の前の物語

知人の紹介で久しぶりに舞台を観に行かせてもらった。
東京へ出るのは久しぶりで、相変わらずの人の多さに辟易してしまった。
茹だるような暑さの中、ドロドロになりながら会場に着く。こんなこと言ってはなんだが、私の周りにいる人はほとんど今日の舞台になにかしら縁のある方達だったのではないのかと思う。
無関係のおじさんは私だけだったんじゃないか。
まぁアウェーには慣れているので肩身の狭い思いをしながら私は案内していただいた席についた。
少しだけ待って、舞台が始まる。
最初に驚いたのはその声だった。
舞台の下手側(客席から見て右側だっけか)から二人の男女がセリフを言いながら現れるのだが、まぁ声が大きい。
会場は抜群に広い、というわけではなく、演者と客との距離がかなり近い。ライブハウスみたいなのを想像してもらうと分かると思うが、本当に近いのだ。展開によってはほぼ目の前で演じることもある。
私は演劇が好きだし、物語が好きなので、舞台も何度か観させてもらったことがあるのだが、ここまで距離が近いのは初めてだった。
(抜群に声がでかい……)
なんて思ったが、しかし、よくよく考えるとこのくらいの声量がなければもっと大きな舞台に立った時に声が通らないのだろう。それともある程度大きな舞台でやるときはピンマイクみたいなものをつけるのだろうか。
色々考えながら観劇していると、次々と登場人物が現れる。基本は男女二人組で群像劇の構成だった。
演者さんは皆芝居が達者だった。少なくとも私にはそう見えた。まぁこうして舞台に立っている以上、実力があるのは確かなはずだ。
白状すると、もう少し不慣れな感じになるかと思っていたが、決してそんなことはなく(たとえそうだったとしても見せず)これで無料というのは些か奉仕の精神が過ぎるのではとも思った。
話もよくまとまっていて、群像劇だというのに複雑になりすぎず、おもしろかった。ほったらかしになってるなーっと思ったところはいくつかあったが、まぁ、そんなに気にしないことにする。
他にも演出として何個か(あっ、ここノイズだな……)と思ったところもあった。些細なことではあったが、最後のアンケートで書いておけばよかった。
それにしても舞台の上をダイナミックに使い、走り回って歩き回ってというのはやはり舞台ならではで面白かったし、視覚的にも派手で楽しかった。これは小説ではあまりできないテクニックだ。
また、演者のセリフ回しというか言葉遣いみたいなものも、「舞台っぽいなー」ってなった。大仰で、くどいときもあって、瑞々しくて、暑苦しい。ハキハキしていて、分かりやすい。
普通の会話を描いていると、どうにも所作がワンパターンになったり、そもそもしぐさなんてなかったりするので、舞台での身振り手振りでワーッと喋るのはいい刺激になった。
久しぶりにいい体験をした気がする。今回みたいに演者と客との距離が近い舞台を他にもいくつか見てみたいなと思えるほどにいい体験でした。

途中でエコノミー症候群になりそうで、腰が痛くて死ぬかと思ったね。

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