「再彩ファクトリー」製造現場レポート
今回は、ペパフの開発者、薮内都さんにご紹介いただき、制作を担っている京都の「社会福祉法人なづな学園 かしの木学園」(以下かしの木)さんにお伺いしました。
薮内さんについての、ポリフ〜ペパフに至るきっかけはこちらの記事をご覧ください。
京都の西院、路面電車が走るエリアにあるかしの木さん。主任の田中京子さん、支援員の深見沙織さん、くふうの薮内さんとともペパフの製造過程や、実際に作業しているメンバー(利用者)のみなさんにもお会いできました。
ペパフとは?
まず、新ブランドのペパフについて薮内さんにお聞きしました。
薮内:ペパフは、くふうが新しく開発したプロダクトです。現在流通しているポリフは不要なレジ袋をアイロンで圧着させて新しい生地をつくっていましたが、今回の主役は「古紙」。家庭や企業などで出る古紙をつかって新しい生地にする方法を一から考えました。ポリフは大阪の2つの障がい者福祉作業所が製造を担っていますが、今回のペパフは作り方も新しくなるので、製造ができる福祉施設を探すところからはじまりました。
ぺパフは、古紙の収集、仕分け、紙を剥がしたり、決められたルールの上で自由にコラージュしたり、ポリフ制作で開発した特殊な溶液(薮内さんいわく『秘伝のタレ』)を浸したりと、障がいのある作り手にとって仕事の選択肢がたくさんあります。かしの木さんでも剥がしたり浸したりの製造過程を拝見することができました。そして、今回の「再彩ファクトリー」のぺパフとも対面!
くふう×かしの木学園のきっかけ
薮内さんたちとかしの木さんの出会いは、薮内さんがSNSでペパフの作り手を募集していたところ、かしの木職員の田中さんがそのことを知り、ぜひ取り組みたいと思ったそうです。じつは田中さん、薮内さんが学生時代に授業でなづな学園をおとずれた際に出会い、気になって薮内さんの活動をずっと注目していたそうです。
田中:もともと、かしの木は企業からの下請けが中心で、量産仕事を得意としていました。なのであえて外向きに営業をしなくても成り立っていました。ただ、新型コロナウイルスの影響もあってこれまで安定していた下請けの受注が減り、これを機会にメンバー一人ひとりの個性も活かした仕事づくりもできればと思うようになりました。また、スタッフも縫製の技術を身につけたりといったスキルアップや、元々のモチベーションもあったので、新しいことに一からチャレンジする機会になるのではないかと思ったんです。決まったものを正確につくるスキルは下請けで習得している。それに加え、もっと自由度の高いモノづくりをしたいという思いに、ぺパフ製造の話はぴったりでした。
もう一つ、田中さんが感じていたのは、メンバーだけでなく、職員も施設の外とつながる機会をつくりたいということでした。かしの木の若手職員の深見さんも田中さんと同じ思いを持っていた一人。メンバー一人ひとりの個性が活かせるようにと、個人で縫製の技術を習得するなど、さまざまなスキルアップをはかってきました。
深見:ぺパフの中でも色々な作業があるんです。色を選んだり古紙を剥がしたり。ペパフづくりに関わっているCさんは、これまで仕事や生活をするなかで不安定になっていた部分が、ペパフにかかわることで安定してきました。日常の大波がおだやかなさざ波に変わってきたんです。
深見さんが商品やメンバーのことを語るときに、いっそう目が輝きます。こんなエピソードも話してくれました。
深見:メンバーのCさん、くふうのスタッフの木村淳さんのことがとても好きになったんです。木村(淳)さんがかしの木に来ると、メンバーときちんとコミュニケーションをとってくれる。Cさんがちょっと不思議な質問をなげかけても、真面目に考えて答えてくれるんです。いまでは木村(淳)さんが来るのに合わせて一番お気に入りのTシャツも着てたりと、Cさんが輝ける作業場ができたんだ、と実感しました。
薮内さんも初耳だったようで、とても驚かれていました。
薮内:びっくりしました!木村(淳)さんは私たちにはそんな話はまったくしてなくて。こうやって外と関わるというのが、お願いしている私たちにとっても思いがけない出会いや繋がりを生むんですね。もともと自分たちがやりたかったのは、障がいのある人の仕事の種類を増やしたいということ。でも、ポリフをつくっているだけでは広がりがない。そうして新しいものづくり、新しい仲間づくりを始めたんです。
ポリフはあくまで一つのプロダクトであって、社会状況などによって作るものは変化していく、その変化のなかで新しい出会いや関係が生まれるのはとても嬉しいことです。
田中:福祉施設はただ仕事をうけるだけではなく、施設の外にいる人たちとコミュニケーションをとるということが本当に大事。商品は社会との架け橋と誰か話されていましたが、今回のことで外にでる機会をいただいたと思っています。
福祉施設として、社会の意識への変化
ぺパフづくりに関わることで、福祉施設のなかでも意識の変化が生まれました。
深見: 100円均一などで買っていた画材も、これまでは余ったら捨てていたものが、捨てる時にもったいないと思うように。「これ使える!」と捨てるのをためらうんですね。ぺパフのように使うその先が見えたら、廃材も魅力に変わるというのが実感できました。
後半には主任の木村さんにも少しお話いただきました。
木村:ペパフのものづくりが、少しずつ施設に変化をもたらしてきていると感じます。親の会でも紹介して好評だったり。今後の課題は、受注数が増えた時に安定した生産に向けて少しずつ体制を整えられるか。薮内さんたちは、ものづくりをしながら「関わり合いづくり」というプロセスを大事にしていると思うんです。ペパフのものづくりは、商品と作品のあいだ。ある程度のパターン、枠組みのなかで自由にセンスを発揮できる。アート活動は利用者主体。下請け仕事ははクライアント主体。ぺパフづくりはその中間の働き方ができると思います。
これからの展開について
かしの木さんでのぺパフづくりはまだ始まったばかり。ルーティンワークの隙間に空いている時間を見つけながら取り組んでいるそうです。
部屋の柱には、Cさんが作った、未来のペパフ班の看板が。
現在は2人のメンバーが中心ですが、今後は下請け仕事に苦手意識を持つメンバーや力を活かしきれていないメンバーも、自分のペースで個性を発揮しながら取り組めるようなかたちを目指しているそうです。薮内さんも、たとえば日常で問題行動と言われるようなことをしている人たちも、ペパフ製造がその個性を活かせる機会になればと話してくれました。
まだまだ伸びしろのあるペパフ。これからも活動が見逃せません
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