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”福”産物ツアー@やまなみ工房

”福”産物ツアーとは?

京都を拠点に活動する「副産物産店」のお二人とともに、障がいのある人が創作活動やものづくりをおこなっている福祉施設をめぐり、そこで生まれる「副産物 (日常や創作活動からこぼれ落ちたもの)」をリサーチ。福祉の現場でなにを「主産物」(そのもの自体が主体性をもって存在するもの)とし、なにを「副産物」とするのか、芸術や福祉の垣根をこえてわたしたちが大切にしているものは何かを、現場のスタッフのみなさんとめぐるツアーをしました。今回は近畿の3カ所の福祉施設を訪問しました。

副産物産店
山田毅と矢津吉隆によるプロジェクト。アーティストのアトリエから出る副産物に新たな価値をつけて提供する取り組みをしています。
オフィシャルウェブサイト

◇ ツアー三日目 「やまなみ工房」訪問


カフェ デベッソで棡葉朋子さん(写真左)より施設についてお話を聞く
副産物産店の山田毅さん(中央)と矢津吉隆さん(右)


やまなみ工房に到着した私たちは、敷地内にあるカフェ デベッソで支援員の棡葉(いずりは)朋子さんからやまなみ工房についてご説明いただきました。
その後棡葉さんのご案内で施設内をめぐり、利用者のみなさんの制作現場を見学させていただきました。※やまなみ工房のの訪問レポートはこちら

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施設の中の天井に小さな粘土が付着していました。
利用者さんが投げつけて付いたそうですが、その行為が始まった当初は投げつける理由が支援員にはわからず、ずっとその粘土と行為を見守っていたそうです。
数年後、たまたまその粘土が天井から剥がれ落ちる瞬間を見た時にご本人がとても嬉しそうな顔をされ、支援員はその方が「粘土が落ちる瞬間を見る」ために投げつけているのだとわかったそうです。

天井に丸張り付いた粘土(ベージュ色の小さな丸)が付着している。


副産物産店のお二人(以下 副):このツアーでは、福祉施設にある副産物を探す事が目的の1つでした。
でも、支援員さんが利用者さんへの寄り添い方の一つとして「行為を見守り続ける(=待つ)」姿勢を持っていたと知り、今僕たちが見ている作品やその周辺にあるものを、作品=主産物と作品以外のもの=副産物に切り離すことはできないんじゃないかと思えてきました。
ここにある「主産物や副産物に見えるもの」は、まだ何ものかに成る過程にあるんですよね。そうなると切り離せない。
だからこのツアーでは、副産物を回収するという目的にこだわらなくても、他の何かを得られるように思えてきました。
利用者さんに延々と向き合い待ち続ける果てしなさ。
その向き合う時間や作品の背景、文脈なしに物を収穫したとしても、何か違う気がします。

作品制作中のみなさん

副:僕たちからは作品の脇にあるように見えるものが、実は本人にとっては「主」である、ということがありそうです。
芸術大学の学生とかだとそういうことはまず無い。「主」と「副」がもっとはっきりしている。

事務局:施設は利用者さんにとって生活の場であり仕事の場であって、純粋に表現だけをする場ではないという、福祉の現場で大事にしていることがこのツアーで改めて見えてきたように思います。

副:支援員さんが利用者さんの行為をどう解釈するか。そこに施設長の山下完和さんや、やまなみ工房全体、また、他の福祉施設の方々ごとの思想があるように感じました。
もしかしたら利用者さんと支援員さんの間にあるもの(関係性など)が副産物なのかもしれない。そして作品はもはや主産物ではない。
支援員さんが見学の中で「何になるかわからないけど残しておく」と言っていたものを、僕たちが副産物として回収するわけにはいかないですよね。

事務局:利用者さんの生活が主産物で、作品は副産物とも言えるかもしれませんね。

副:山際正己さんの作品「正己地蔵」で作品として出せず外に置かれているものがありましたが、それを副産物として持ち帰るのも違う。
外に置かれているその姿が、まさに「地蔵」になっている。

陶芸の窯場の脇に置かれている「作品」とはされなかった地蔵たち

副:もう一歩離れたところにある何か、副産物はそこにあるのかもしれません。たとえば窯で陶芸品を焼く時の土台とか。
個々の作家さんの周辺というより、施設全体に目線を拡げて「副産物」を探す必要がありそうですね。

棡葉:陶芸作品を焼く窯から出る灰があるのですが、それは副産物になりますか?
鎌江一美さんの作品「まさとさん」の中に入っている新聞紙が焼けたものもあります。

副:それはとてもいいですね。そういったところに何かがこもっているような気がしています。ぜひ拝見したいです。

議論を重ねるなかで、作品の周辺にある物の、さらに外側に副産物がありそうだということで、全員で陶芸窯を見に行きました。

窯場に行くと大量の灰がありました。
二十年にわたり何十万体も作られた地蔵やその他たくさんの陶芸作品を焼いて生まれた灰は、それだけで思いが込められたものに思われます。
その灰を袋につめて頂けることになりました。
また「まさとさん」の制作過程で出た新聞紙の焼けかすも頂けるけることになりました。

袋に詰められた灰を覗く山田さん。これを数袋頂けることに。
白いものは正己地蔵焼成の過程で焼け残った新聞紙


窯の周辺に目をやると、地面に転がっている石の中に絵の具のついたものがあるの発見しました。
棡葉さんにお聞きすると、利用者の榎本朱里さんが絵の具を打ち付ける方法でペインティングする時、地面に落ちる絵の具が石に付着したのだとわかりました。

発見したたくさんのカラフルな石を拾うのがとても楽しそうなお二人
  

副:この石はとてもいいですね。創作の中からこぼれ落ちた物として面白いです。

よく見ると、石はその天面だけでなく裏側にも絵の具がついていました。

石によって表情が違う。ここからどんどん石が集まり、箱を持ち上げるのが大変な量になった。

副:これだけ石に色がついているということは、本当にからだを使いながら創作されていますよね。地面に生えている草にも色が飛んでいたり、絵の具が塊になって落ちているところもあります。迷いなくどんどん創作されている様子がありありと伝わってきます。

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今回のツアーでは、支援員のみなさんが利用者さんと日常をともにする中で、本人の時間感覚に合わせて「待つ」ことの豊かさや、生活や仕事と作品との距離感(切り離せなさ)、そこに流れる時間のスピードについて、感じたり考える機会が得られました。

本人や支援者にとってどこが「主産物」でどこからが「副産物」なのか、作品と作品ではないものの境目はあるのか、根本から考えなおす機会になりました。

◇ ”福”産物ツアー振り返り

3つのユニークな福祉施設を訪問して気づいたことは、創造的な福祉の現場では、ものづくりや表現活動において、やり方や考え方に違いはあれど、すでに副産物的視点があるということです。その背景を探ると、福祉の現場でもっとも大切にしているものが、障がいのある人の存在そのものだということです。主産物・副産物という考え方でいうと、障がいのある人の存在を中心とした様々な出来事、つくられたもの、作品、そこから漏れたものたちすべてが、そばにいるスタッフ、支援員のみなさんにとって大切な主産物です。たとえゴミのようなものでも捨てられないし、場合によっては商品化し、障がいのある人の給料に還元できるような工夫をたくさんしています。
副産物産店というユニークなユニットと福祉の現場をめぐることで、福祉の現場での大切なものがあらためて見えてくる、そんなツアーになりました。これはきっとアートやものづくりの現場に限ったことではないでしょう。それらのいわば福祉の産物=”福”産物をこれからも社会に発信していきたいと思いました。ツアーをアテンドしていただいたみなさん、副産物産店の山田さん、矢津さん、ありがとうございました!(たんぽぽの家 岡部太郎)

写真:衣笠名津美
レポート:事務局 小松紀子

副産物産店やお二人個々の活動拠点についてはこちらのリンクをご覧ください。▼
副産物産店 https://byproducts.thebase.in/
只本屋(山田毅さん) https://tadahon-ya.com/
kumagusuku(矢津吉隆さん) https://kumagusuku.info/

エイブル・アートSDGsプロジェクト2022「リ・プレイ つくりなおし、あそびなおし」では、今回のやまなみ工房(滋賀)の他に、Good Job!センター香芝(奈良)と、西淡路希望の家(大阪)、計3施設を副産物産店のお二人と巡る「”福”産物ツアー」を行いました。
この他のプロジェクト活動として
▼2022年11月4日(金)特設Webページと期間限定オンラインストアの開設
▼2022年11月11日(金)「副産物産店」オンラインワークショップ
▼2022年11月20日(日)エイブル・アートSDGsセミナー/poRiffワークショップ
が行われます。
ぜひ特設Webページをご覧の上ご参加下さい(イベント等は要予約)。
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 ◎ 特設Webページ

https://booklorebooks.net/ableart2022/20221101/
 ◎ 期間限定オンラインストアhttps://goodjobstore.jp/pages/able_art_sdgs_project_2022



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