3/15

彼女がバイトに出ている間、駅のなかのとんかつ屋で豚カツを食べて、そのまままっすぐ歩いてみる。湾を見てみたかった。当てのない散歩のときはGoogleマップの水のところに行く。

川と湾に挟まれているということもあり、この辺りは羽田の辺とよく似ている。うっちゃったような幅のでかい道路のわきに、スケールのでかい公共施設がぼつぼつとある。裁判所のような風格の下水の最終処理場を横目に湾の方に歩いていくと、行徳の鳥獣保護区というところに着く。湾の手前に人工的に干潟を作って、そこで渡り鳥や定着する鳥を保護するというところのようだ。干潟の近くまでいくのは専用の日に専門家と一緒に行くイベントがあるみたいで、平常時はだいぶ離れたところから双眼鏡を使ってみる。ぶっとい望遠レンズをぶら下げたジャケットの初老男性が多く往来している。鳥を趣味にするということのハードコアさを思う。限定された趣味の人が限定された言葉を交わす様を想像する。休憩所と観測所を兼ねた施設に入って座る。隣のご婦人らの片方がバードウォッチングを趣味にしているようで、連れの女性に向かって説明している。「あの三味線のバチみたいな尾のがトビね」「あの小さいのは?」「あのパタパタパタパタは、あれはカワウ」

行徳の駅の方まで歩いて、カフェを探した。2軒ほど良さそうなところがあったが、2軒目の店内に戦争と平和を読んでいるご婦人がいて、骨太の本を読める環境ということは良い店だと思い、そこにした。テラスしか空いていなかったがこの陽気なのでテラスにした。クロワッサンと深煎りをもらう。隣が幼稚園で軒先に園児が集まっていて、これから散歩に出るところだった。園児らが散歩に出てからは、往来には人の声はあまり響かなかった。濹東綺譚を読んで、今日見た川沿いの景色を重ねた。陽が傾くと風が出てきて居た堪れなくなった。そろそろ出ようかと思っていたら店主が出てきて店内の方を案内される。しばらく居座ってから、浦安の方までまた歩き出した。江戸川の支流の堤防を歩いていく。東にはスカイツリーの頭がぼんやりと霞んでみえ、南には豊洲のビル群が霞んでいた。

彼女が帰ってきて、浦安のニトリでカーテンを買った。昼と同じとんかつ屋で唐揚げを食べた。店の人に向かって「騙すつもりなのか」とか言ってキレているおじさんがいた。とんかつ屋が騙すわけがないだろう。物騒な言葉を使うんじゃない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?