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星川淳さん書評『一三分間、死んで戻ってきました 』

【読書メモ】長澤靖浩『一三分間、死んで戻ってきました ~臨死体験と生きることの奇跡~』(ひかる工房)

OSHOの兄弟弟子としてつきあいの始まった旧友アビシェーカ(現在は自ら「ひかる」に改名)が、2013年に原因不明の心室細動で倒れ、九死に一生を得た。10日ほど続いた昏睡中、ぼくも本気で生還を祈っていたが、そのあいだに経験したという臨死体験を初めて著書にまとめた本だ。これまで断片的に聞いたり読んだりしていた内容が、ていねいに、素直に整理されていて、一読をお勧めしたい。

本書の前に小説を含む5冊の著書があり、言語表現にも長けている本人によれば、そこで経験したのは、散文で表わすと次の4センテンスに尽きるという。

「そこには、ただただ広大な宇宙が広がり、無数の星々が集(すだ)いていました。それは完全に透明で静かな『永遠の今』でした。何ものにも碍(さま)たげられることのない覚醒が宇宙の隅々まで行き渡っていました。その覚醒はすべてのものに沁みわたり、貫き、透き通っていました。」

ぼく自身、この種の超常体験はしたことがないけれど(瞑想でも特に変わった経験はない)、これに尽きると言われれば「そうだろうね」と思える。ただ、正直なところそれだけだ。同じ師匠から学び、悟りにしろ臨死体験にしろ何か特別な境地を追い求めることはしなくなって久しいし、本書で綴られているのは友人にたまたま訪れた臨死体験であって、それ以上でも以下でもない。

むしろ本書の醍醐味は、生還後の著者が高次脳機能障碍を抱えて不自由になった体で(いまも基本的には電動車椅子の生活らしい)、ふつうなら助からない13分間もの心肺停止を生きのびた理由を分析したり、輪廻を否定しつつ量子脳論からその疑似可能性を推測したりしながら、何より生と死の綱渡りである一瞬一瞬を生ききり、「歌って、踊って、楽しみたい/この星の隅々まで旅をしたい/この世でしか触れ合えない人々と交流したい/この世にしか咲いていない華を愛でたい」と日々を送る姿だろう。さしずめ、21世紀版十牛図の第九図「返本還源」から第十図「入鄽垂手」あたりかもしれない。

中でも、このような著者が、認知症と脳梗塞が進んだ末に亡くなった母親をどう看取り、送ったかは、もっと高齢でいろいろ怪しくなってきた母のいるぼくにとっても胸に沁みた。

※長澤さんは、ついに出版も販売も自前でやるようになり、購入は下記リンクから


最初に私信で来た以下の第一報もありがたかったです。

許可を得たので、転載します。

読みました。いい本だね! 何か所かでウルっときたけど、叔母さんの「やっちゃん。私のときもそうやってあんたが見送ってえな。よう知らんお坊さんより、ずっとええわ」と、ひかるが韓国のマンガを読んでお母さんとお別れするところが胸に沁みた。180ページ6行目の「内蔵」は「内臓」の誤記でしょ。

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