見出し画像

アイヌモシリ運動会など

僕がアイヌモシリ一万年祭で楽しみにしていたのが、色んなミュージシャンのステージ。
逆に一番期待してなかったのが、運動会。
なにしろ、運動苦手で、運動会嫌いなのに、自分の幼稚園時代から始まって、小中高、31年の教員生活合わせると、50回以上、運動会してるので、いやいやそれだけじゃなく、自分の子どもの運動会の場所とり、元妻に促されての、子どもの撮影含めると、もっとイヤというほど運動会してるので、辟易。
しかし、まあ車椅子ユーザーになって初めての運動会。
人生で初めて7年も運動会しなかった挙げ句の久々の運動会なので、できるやつ参加してみるのもいいかなと思った。
まずはパン食い競争に参加。
スタートを切ると、皆、ばっと走り出すので、当然、車椅子は最後尾に付いて行く。
僕が吊り下げられたパンの場所に達すると、係が紐を下げてくれ、おまけに誰かが咥えるのを援助してくれた。
残っていたのが、一番よい饅頭だったのでそれをゲット。
皆の拍手を浴びて最後にゴールする障碍児の立場や気持ちがわかったというか、それをイヤに感じる子もいるかもしれないが、僕は晴れがましかった。
イエーイ、饅頭ゲットと両手を挙げた。
一位から三位は、なんか商品券をもらっている。祭の出店ブースで使える300円から100円の券だ。
車椅子で三位入賞は難しく、あれはゲットできない。
後で、聞いた話だが、この一万年祭の7日間の参加費2000円はこの商品券などですべて参加者に還元され、主催は何も「儲けない」らしかった。
2000円という参加費自体、7日以上のキャンプインの権利、あらゆるステージの鑑賞や参加を含んでいて、フェスとしては破格的な安値だ。
しかし、それでさえ、行事の中ですべて参加者に還元されてしまうらしかった。
循環経済のスピリットが透徹しているのだ。
出店の各ブースは券を受けとって食事などを供給すると、その商品券を後で主催者に換金してもらえるというシステムらしい。
粉で顔が真っ白になる飴食い競争は好きではなかったが、それにも参加して、一か八か入賞を狙うことにした。(笑)
スタートは数メートルのハンディをつけてもらえた。
が、スタートを切ると、やはりばっと走りだす皆にすぐ追い抜かれ車椅子が追いつくわけはない。
と、ふと横を見ると、和っしょいキャラバンのYがお似合いのドレッドヘアで、車椅子に伴走しているではないか。
港から一万年祭会場までのヒッチの仕方などをネットでも、アドバイスしてくれていた若者だ。
「まあ、のんびり行きましょう」
彼は笑って言った。
しかし、Yにはそうする筋合いはないのだ。
顔を粉で真っ白にしながら、飴を咥え、僕とYは同時にゴールインした。
教員時代の初めの頃、牧歌的な時代には、誰が伴走するか決めなくても、誰かが勝手に障碍児に伴走した。
後に誰が伴走するか、あらかじめ話しあって決め、そうするようになった時代もあった。
それは、そうすることが正義や義務になってしまっているという意味で、よかったの悪かったのかよくわからない。
しかし、今、Yは自分の判断で僕に伴走して一緒に楽しもうとしてくれたのだから、素直に喜ぶことができた。
一見、世間一般からは少し外れているように見える若者たちのこうした優しさには、ある種、目を瞠るものがある。
あるいは、自分も何らかの意味で、外れ者であるからこそ、その悲しみを優しさに変容させて表現しているのだろうか。
僕は彼を心底、信頼できる人物だと感じた。
穿ちすぎかもしれないが、自分が受けた悲しみを他にも及ぼすのではなく、他にはそのような悲しみや傷みがないように行動しようとしていると感じたからだ。
生きる姿勢として見習いたい。
しかし、さらに驚くべきこと?が起こった。
Hという、レインボーキャラバンの女性が、獲得した300円券を持って近づいてきた。
そして、何の商品券もゲットしていない車椅子の僕や、運動が苦手なNに、この300円券で3人で一緒に何か食べましょうと言い出したのだ。
その時、Hが教えてくれたのが、皆が払った2000円の参加費はすべて皆に還元されるということだ。
この商品券もそうだから、これは参加した皆のものだというのだ。
僕らは三人で一緒にカレーのブースに行き、分かちあってカレーを食べた。
僕は世話になった人に渡そうと思ってコピーしてきた過去の書きものの冊子を彼女にあげた。
彼女はその場ですぐひとつのエッセイを読みとおし、素敵な話ねと言った。
それからもうひとつの、空海の蝦夷差別についての文章(やや難解)にも、目を走らせ、初めて知った、ありがとうと言った。
そんなこんなの全部を含めて言うのだが、僕は自分の幼稚園時代から50回近く参加してきて辟易していた運動会というものを生まれて初めて、心底愉しいと感じた。
60歳にして。

アイヌモシリ一万年祭の話は続く。

飴食い競争でゴールした人たちの笑顔。

追記
Yと一緒に飴食い競争ゴールインしたときの、ゴッキゲンな写真送ってもらえたのでアップします。


もしも心動かされた作品があればサポートをよろしくお願いいたします。いただいたサポートは紙の本の出版、その他の表現活動に有効に活かしていきたいと考えています。