仏教論理学序説

その5

シチェルバツキーの他に忘れてはならない学者に、ウイーン大学の教授フラウワルナー(E,Frauwallner,1898-1974)がいる。彼のことは有名な世親2人説でご存じの方も多いだろう。フラウワルナーは、数多くの仏教論理学関係の論文を執筆した。中でも1954年発表の「ダルマキールティ著作の順序と生成」Die Reihenfolge und Entstehukng der Werke Dharmakirti’は重要である。彼はダルマキールティの全7作の位置づけを試みたのである。フラウワルナーは、先に触れた章の異例な順序から推理を始め、『量評釈』に注釈とは異質な彼独自の作品を注釈として組み込んだと考えた。順序の混乱の原因をそう見たのである。『量評釈』に不満足なダルマキールティは、『量決着』Pramanaviniscayaという作品を生み出した。フラウワルナーはこの『量決着』こそダルマキールティの主著とした。論文の主旨は昭和59年発刊の『講座・大乗仏教9 認識論と論理学』所収の「ダルマキールティの論理学」に赤松明彦氏がまとめている。フラウワルナーの推理は推理として面白いが、納得いかない部分もある。主著とされた『量決着』には、宗教的側面がほとんどないのである。一方『量評釈』には、輪廻の証明やら仏陀の一切知者等が、事細かに論じられている。ともあれ、音楽の都として知られるウイーン大学は仏教論理学の都でもあるのである。フラウワルナーの後も、シュタインケルナー(E,Steinkellner)がその分野の重鎮として活躍している。多くの日本人もそこで学んでいる。

 


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