仏教論理学序説

その2

シチェルバツキーは、序論の中で、興味深い話題の触れている。中でもダルマキールティの主著と思われる『量評釈』Pramanavarttika(現代風に訳せば『認識論注釈』とでも言えよう。その書は絶大な人気を誇ったせいか、後代、解釈が分かれていく。シチェルバツキーは、代表的な解釈のグループとして、「文献学派」「哲学学派」「宗教学派」に分けた。「文献学派」にはダルマキールティの直弟子デーヴェンドラブッディ(Devenndrabuddhi)や孫弟子シャーキャブッディ(Sakyabuddhi)が当てられた。「哲学学派」にはダルモッタラ(Dharmottara)がその名を挙げられた。そして「宗教学派」にはプラジュニャーカラグプタ(Prajnakaraguputa)がグループの創始者として挙げられた。シチェルバツキーは、こう述べている。
 チベット訳に残されている〔ダルマキールティの〕作品は、3グループに分けられるかもしれない。解釈が導かれる「主要な原理」leading principlesによればである。(Buddhisit Logic,pp,39-40)
この発言は、何十年か後に、袴谷憲明氏により、チベットの『学説綱要書』に1部確認された。しかし、上にある「主要な原理」を明確にする研究はまだない。
 またダルマキールティの主著と目される『量評釈』は、その章の順序が謎めいている。4章から成り、先人のディグナーガ(Dignaga)著『集量論』の注釈として書かれた。しかるに、『集量論』の順序通りに注釈していないのである。このことを伝えたのは弟子のヴォストコフ(A,Vostrikov)であった。シチェルバツキーは、こう述べている。
 ヴォストリコフ氏は彼〔ダルマキールティ〕の考えが後代変化したと認めている。(Buddhist logic、p,39)
そしてこう注記する。
 彼のペーパーは、レニングラードの仏教協会の集まりで目にした。まもなく公刊されるだろう。(Buddhist logic,p.39,notes 1)
ヴォストリコフは、公刊前に夭折した。近年小野基氏が省の問題を扱ったが、これにもなお謎が残るのである。

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