因明(インド論理学)

その7
 次に、『倶舎論』との関わりを念頭に置いて、『真理綱要』を論じてみよう。『倶舎論』は、説一切有部の教義を扱う。説一切有部の基本思想の1つは、「三世実有論」である。その学派名の由来ともなったこの論は、第5章「随眠品」anusaya-nirdesaで取り上げられる。それを踏まえ、『真理綱要』第21章でも論じられる。先に、紹介した2つのサンスクリット原典には、それぞれ、目次が付されている。抜き出して、両者を比べて見よう。先ず、G.O.S版は以下のようである。
1.「一部仏教徒の見解に関する 三時の集合体への懸念」bauddhaikadesyabhimata bhavatraikalyasanka 1786偈 p.503.(カマラシーラの注によれば、ダルマトラータ(Dharmatrata,法救)を始めとする仏教徒である。p.503,l.24,順次、法救等4論師の説が列挙され、批判される。これは『倶舎論』を踏まえたものである。)
2.「そのうち、ヴァスミトラの見解たる三時の提示の陳述」tatora vasumitorabhimatasya traikalyaprakaranasyanuvadah 1787-1793偈 pp.503-506.
3.「その見解のうち作用の過失を中心にした、その思想の批判」tadabhimatakaritradusanamukhena tanmatanirasanam 1794-1803偈 pp.506-508.
4.「作用を用意するサハ(マ)ンタバドラ〔=サンガバドラ=衆賢〕への、抗議を顧慮し、それを批判する」karitram samrthayatah saha(ma) ntabhadrasya pratyavasthanam asankya tannirasanam 1804-1806偈 pp.508-509.
5.「彼自身のさらなる抗議を顧慮し、批判する」tasyaiva punah pratyavasthanam asankya nirasanam 1807-1810偈 p.510.
6.「詳細に、三時の集合体を批判する」vistarena bhavanam traikalanirasanam 1811-1856偈 pp.510-517.
一方、B.B.S版は、こうである。
1.「ヴァスミトラの三時の集合体説」vasumitorasya bhavatraikalyamatam
2.「尊者サンハタバドラ〔サンガバドラ=衆賢〕説」bhadantasamhatabhadramatam
3.「それへの反対陳述」tatpratividhanam
4.「再びそれを構築することへの批判」punastatprtyavasthanasya nirasanam
5.「詳細に、三時の集合体を批判する」vistarena bhavanam traikalyanirasanam
6.「過去等の実在性不成立論証の策定」atitadisattasadhakapramananam prakaranam
2つのテキストの目次は、微妙に異なる。実際に本文を読んで、目次の適否も見極めねばならないだろうが、おおよその流れはつかめる。まず、『真理綱要』は、三世実有説を批判する立場にある、ことはわかる。そして、明らかに、『倶舎論』を踏まえている。更に、『倶舎論』の後に著された反『倶舎論』の衆賢説も批判しているようである。批判の中心課題が、「作用」であることもわかる。以上が目次から推測可能な内容である。次に、先行研究
について、見ておこう。

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